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昔と今の話

今回、解説多めです。

 エクスノート連合。

 そう呼ばれた国家群があった。

 今では超古代文明と呼ばれる存在である。

 エクスノート連合は魔法と科学を融合させた魔導科学を創った祖でもあった。

 その技術の結晶と呼ばれるのが「ギア」と呼ばれる魔導機械である。


 ギア。

 その大きさ、形状は様々だ。

 例えば、ソードギア。

 これは「剣兵型」とも言われる、今でもよく発掘されるギアだ。

 大きさは人間程度の人型。

 長剣を装備し戦う、鎧騎士のような姿のギアだ。

 他にも「銃兵型」と呼ばれるガンナーギア、「弓兵型」と呼ばれるアーチャーギアなど……人間サイズのギアだけでもたくさんある。

 人型でないものを数えるなら、浮遊する球状の「ビット」と呼ばれる種類もある。

 また「巨兵型」など、様々なギアがエクスノート連合で生み出された。

 これら全ては、デビルフォースに対抗するためだ。


「デビルフォース……」

「そう、デビルフォースです。それが何かであるかは分かっておられますな?」

「う、うん」

「嘘おっしゃい」


 え、ええー……。

 そんな事無いよう。


「一定周期で時空の狭間より現れる、異形の軍勢だよね。世界の歪みとも言われてる……」

「まあ、その通りです」


 デビルフォース。

 ソレに対する解釈は、昔から変わらない。

 負ければ世界が滅びる。

 あらゆるデータが。

 あらゆる本能が。

 デビルフォースに負けた時の破滅を示していた。

 だからこそ、エクスノート連合の人々はギアを生み出した。

 けれど、それでも足りなかったのだ。


 それでも、エクスノート連合の人々は最後まで希望を捨てなかった。

 ギアで培った技術を結集し、ギアと似て非なるモノを造ったのだ。

 人間と変わらぬ感情と姿を持つ、新たなるギア。

 人の魂すらも分析し、それを持たせようとした新しい人の形。

 絆を紡ぎ戦う、デビルフォースとは真逆の在り方。

 プリンセスギア。

 世界の希望を、最後にエクスノート連合の人々は造った。

 しかし、それを起動する事無くエクスノート連合は滅びてしまったのだ。


「そうして遺跡として残ったギアを掘り出し、現代の人々は使っているわけですな。かくいう吾輩の召喚存在にも、在りし日のギアを呼び出す術があります」

「ふーん」


 そのプリンセスギアが掘り起こされて戦ったのが、ゲームの時のオープニング……ってことになるんだろう。


「そして現代ですが……プリンセスギアの劣化版の武姫なる技術があるようですな」


 武姫。

 プリンセスギアの劣化版とも言えるものだ。

 パートナーである機士との絆を紡ぎ成長するロボット。

 名前の通り女性型限定で、とても高い戦闘力を持っている。

 これもまた、デビルフォースに対抗する為に造られたものであり……数を揃えて戦うのが前提となっている。

 最も武姫と機士の契約は機士1人につき武姫1人のみとなっているので、数を揃えるには機士を揃えねばならず……だからこそ、武姫の技術は広く公開されていた。


 しかし。

 ある1人の貴族が、その状況に危機感を抱いた。

 武姫は強力だ。

 この技術を利用して、市民が革命を起こせるのではないだろうか。

 貴族よりも市民の方が圧倒的に多い。

 もし一斉に攻めて来たら、対抗できない。

 

 ……そして、この貴族に囁いた者が居た。

 その者は、こう言ったのだ。


 ならば、ギアの数を増やして武姫は減らせばよろしい。

 なに、心配はいりません。

 ギアの改良は進んでいますし、昔とは比べ物になりません。

 そこに選ばれた者のみが操る武姫でトドメを刺し、英雄になればよいのです。

 貴族には、そうなる権利がございます。


 英雄。

 その言葉に貴族は、大きく揺れた。

 そう、確かにギアの改良は進んでいる。

 ならばギアを増やし、厳選された最高の武姫を貴族や王族が所有していればいい。

 そうすれば反乱も防げるし、デビルフォースにも対抗できるではないか。

 そう考えた貴族は、少しずつ武姫の技術を隠蔽していった。

 口伝で子孫にも伝え、少しずつ、少しずつ。

 その考え方は他の貴族にも伝播し、静かに……しかし、急速に市民の間から武姫の技術は失われていった。

 こうして、一般人の間から「武姫」は失われた。

 現在では一般人に新たな武姫を得る手段はなく、「はぐれ」と契約するしか手段はない。

 また、壊れた武姫の部品などから解析した技術で造られた「新式武姫」と呼ばれる劣化品も存在するという。

 ただしこの場合はギアと何ら変わらず、武姫の最大の特徴である「契約」も出来ない。


「うーん……聞いたのと同じだなあ」

「まあ、今の時代武姫がどれだけ珍しいかは理解されましたかな?」

「うん」


 僕の返事にミケは満足そうに頷くと、僕に肉球をびしっと向ける。


「では、貴方が下手に街に行くとどうなるかも理解されましたかな?」

「え、えっと。騒ぎになるよね?」

「何故騒ぎになるかについては理解されてますかな?」


 んっと……そこがよく分かんないんだよなあ。

 なんでだろ。

 僕が首を傾げてみせると、ミケは溜息をつく。


「その格好のせいですよ」

「え? カッコいいじゃない」

「……」


 黙り込むミケ。

 うわ、すっごいジト目だ。

 何アレ、心が抉られちゃう。


「少なくとも、現代に無いデザインですからな。それだけで武姫の可能性を疑われることでしょう」


 む、なるほど。

 つまり僕の格好がハイセンスすぎて武姫の可能性を疑われる、と。

 そういう事なら納得したぞ。


「つまりカッコよすぎる僕のオーラが漏れてるから、時代に合わせて変装すればいいんだよね」

「あー、まあ、よろしいのでは?」


 ちょっと、なんでそこで遠い目をするのさ。

 でもまあ、いいや。

 そういう事なら手はあるぞ。


「でもこの服は僕の戦闘力にも直結するしね。だからアバターを使おうと思うんだけど」

「アバター……ああ、衣装変換機能のことですな」


 あ、ゲーム限定の機能じゃないんだね。

 でもそれなら話が早いや。


 アバター。

 それはゲーム内のキャラクターを、装備をそのままに着せ替えが出来るアイテムの事だ。

 基本的には課金アイテムであることが多くて、プリンセスギアでもそうだったりする。

 例えば、使用日数に制限のある課金衣装アイテム。

 例えば、ガチャという抽選で手に入る無期限の衣装アイテム。

 ゲーム時代は、僕も凄く熱中したものだった。

 何しろ、常設のガチャだけじゃなくて季節ごとに色んなガチャが出るのだ。

 覚えてるだけでも、バレンタインガチャ、ホワイトデーガチャ、真夏のガチャ、ハロウィンガチャにクリスマスガチャに正月ガチャ。

 他にもメルヘンガチャとか企業や色んな作品とのコラボガチャ。

 もう凄い数が出たものだ。

 しかも、どれだけ回しても当らない事もあったから、トレードがガチャの度に盛んになったのも良い思い出だ。


「えーっと……衣装変換?」


 僕がそう言うと、空中にメニューがパッと現れる。

 僕の今の姿と、持っているアバターが表示されているのが分かる。


「んーっと……今のアバター装備はなし、と」


 まあ、当然だよね。

 持っているアバター装備から選んで装備……っと。

 よし、完成!


 僕の姿が光に包まれて、姿が変換される。

 なんだか変身ヒーローになった気分だね、これ。


「どう、どう?」


 僕は変わった姿で、ミケの前でくるりと回ってみせる。

 今の僕のアバターは、こうだ。


頭:メルヘンリボン(青)

身体(上):メルヘンドレス(青)

身体(下):メルヘンドレス(青)

手:なし

靴:メルヘンシューズ(青)

マント:なし


 通称、メルヘンセット(青)。

 青を基調にした、ほんわか系の童話の主人公っぽい服だ。

 どう、どう。

 これなら町娘っぽいし問題ないでしょ?


「はぁー……」


 ところが、ミケはそう言って大きな溜息をつく。

 え?

 なんで?


「いいですか、そんな良家のお嬢様っぽい格好でどう街に入られるおつもりで?」

「え? ふ、普通に?」

「モンスターの蠢くスタット平原を、1人で歩いてきたと言うつもりですか?」

「え? いや、その」

「いいですか、ご主人」


 ミケは杖で、僕をビシッと指す。

 

「普通の人間はですな……スタット平原を1人でウロウロしたりしないのです」


 え、ええー……。

 そんな事言われても。

 

「もっとこう、探索者っぽい格好はないのですかな?」


 探索者っぽい格好ねえ……。

 となると常設ガチャの騎士鎧セットとかかなあ。

 あ……あった。


「衣装変換」

 

 出てきたアバター画面で、僕は騎士鎧を選ぶ。


頭:なし

身体(上):騎士鎧(上)

身体(下):騎士鎧(下)

手:騎士のガントレット

靴:騎士鎧(靴)

マント:騎士のマント


 兜は今回無し。

 だってあれ、僕のツインテールがどうなるか良く分かんなくて怖いんだもん。

 そして僕の姿が光に包まれて、姿が変換される。


 今度の僕は、鋼色の騎士鎧と、青いマントに包まれた姿。

 うん、僕ってばカッコいい。


「……ふむ。まあ、いいでしょう」


 あ、ミケのオッケーも出た。


「これなら町に行けるね?」

「ええ、ですが当然ご主人が如何なる人物であるかも偽装せねばなりません」

「うん」


 ミケはそこで咳払いをすると、僕の「設定」を説明してくれる。


「いいですか、ご主人は物心つくと同時に家を出たことにします。そのまま探索者になるとか言いながらフラフラと旅を続け、自分が何処の出身だったかも今何処に居るかも気にしてないような常識知らずのバカ娘……ということにします」


 やだ何それ。

 僕がかわいそう。


「やだー! こんなカッコいいのに、ただのバカなんてやだー!」

「諦めなさい。ご主人の常識の無さを曝け出しても問題の無い設定は、このミケの頭脳をもってしてもそれくらいしかないのです」

「ミケの無能ー!」

「いいから落ち着きなさい」

 

 ミケの肉球が、僕の鼻に押し付けられる。

 わあ、獣臭い。


 ……うん、落ち着いた。


「いいですか、ご主人。人の評価は、ご主人の行動によって変わります。幾ら良い設定をつけて名乗ったとて、ご主人の行動によっては疑われます。最初から最低な設定をつけておけば、何をやらかしても疑われにくいのですよ」

「それは分かるけど……」

「ならば宜しい」


 まあ、そうなんだけどさ。


「あ、そういえばなんだけど」

「ええ、何か?」

「僕、街に行く意味ってあるのかな?」


 必要なものは全部ここで揃うしね。


「まあ、ありませんが。誰かと会って街に行かざるを得ない状況もあるでしょうからな」


 つまり、いざという時の為……ってことみたいだ。


「それに、いずれ街での身分も必要となる事もあるでしょう……まあ、全ては備えあれば、ということですな」


 なんだか、難しいね。

 とすると、僕は今何をすればいいのかなあ。


「それは勿論、修行でしょう?」


 ミケはそう言うと、僕をバカを見る顔で見た。

 ……いつかそのヒゲ、引っ張ってやる。


 

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