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探し物

 切り立った崖に囲まれた道。

 そこを歩く4人を、僕は上から見下ろす。

 元砦なだけあって、こんな感じの切り開いた道も多い。

 探せば、こうやって隠れられるスポットなんてたくさんあるのだ。

 ちょっとしたスパイ気分の僕だけど。

 なんだかちょっと楽しくて、癖になりそう。


「こちらアルファ。青ロン毛のパーティを確認。引き続き監視する」


 そんな事を言いながらニヤニヤしていると、4人の前に地面から岩人形のようなモンスターが染み出るように現れる。

 このアルギオス山脈のモンスター、ロックドールだ。

 数は2体……まあ、たぶん問題ない状況だ。 


「ロックドールだ!」

「くっ、2体か……いけるかジャック!?」

「お前が1体、俺が1体……抑えるだけなら何の問題もねえ!」

「フッ、数だけはな!」


 青髪の人が鋼の剣を引き抜き、ジャックさんが短剣を構える。

 うーん、あの2人が壁で残りの人が火力と回復かあ。

 バランスいいようにも見えるけど、火力足りなくないかな?


「我が心は燃え盛る炎の如し。故に、我が魂より顕現せよ」


 魔法使いのお姉さんが呪文を唱えている。

 身体の周りを渦巻くのは、火属性を示す赤い光。

 うーん、魔法使いもカッコいいなあ。


「燃えよ、渦巻け、飲み干せ! ファイアストーム!」


 魔法使いのお姉さんの杖から出た炎の渦がロックドールを蹂躙するべく襲い掛かる。

 剣士の人とジャックさんはファイアストームの着弾の瞬間にバックステップで離れつつも、戦闘態勢を解いていない。

 そんなに心配しなくても、ファイアストームが極まったんなら一発だと思うけど……。

 そんな事を考えながら見ていると、炎の消えた場所にロックドールが焼け焦げながらも立っている。

 え、ええー!?

 ロックドール相手に火魔法なら属性的にも有利なのに!

 しかもファイアストライクの上のファイアストームで一確できない……ってことは、えーと。

 うん、属性の計算式分かんないや。

 そもそも分かってステータス逆算しても仕方ないし。


「よし、効いてる! この調子でいくぞ!」


 青髪の剣士さんとジャックさんは再びロックドールを牽制している。

 うーん、なんかいつも通り……みたいな感じ。

 ということは、あれで普通ってことなんだよね。

 でもロックドールにあれだけ手こずってたら、ロックゴーレムとかどうするんだろ?


「ファイアストーム!」


 3発目くらいのファイアストームでロックドールはバラバラにばって地面に転がり落ちる。


「よっし、やったぜ!」


 ガッツポーズをとったジャックさんが、ロックドールの残骸に近づいていく。

 アイテムの回収するんだな……と思ってみていると、状況さんはハンマーらしきものを懐から取り出して残骸をカンカンと叩き始めた。


「んー……こいつは外れだな」


 叩いていた残骸を投げると、別の残骸をまた叩いて。


「……む、こいつか?」


 そう言って、残骸を地面に置いて更にガンガン叩いて割ってしまう。

 え、ええー?

 なんで普通に回収しないの?


「……よっし、イエロージュエルだ!」


 そう言ってジャックさんが取り出したのは、黄色に光る透き通った石。

 イエロージュエル。

 土系統の属性のモンスターから採れる、収集アイテムだ。

 属性武器の材料にもなるけど、土属性はそんなに人気が無いから捨て値で売られたりする悲しいアイテムだ。


「やった、これで少なくとも黒字は確定ね!」

「よかったです……」


 喜ぶ魔法使いと治癒士のお姉さん。

 青ロン毛の剣士さんも、なんだかニヒルな笑みを浮かべている。


「うーん……?」


 なんか妙だ。

 あのジャックさんのアイテムの回収方法もそうだけど、イエロージュエルの事もだ。

 イエロージュエルの価値自体は、ここはゲームじゃなくて現実なんだから、僕の中に常識としてある相場と違っていても驚きはない。

 でも、あのアイテムの回収方法は……。

 ロックドールの残骸がまだ残っているのも気になる。


 これは、ひょっとすると……コマンドでのアイテム回収って、ひょっとして普通の人間には出来ない特殊技能なんじゃないだろうか?

 だとすると、いくら人間のフリしたって武姫だってモロバレになりそうな。

 更に言えば、武姫にも使えない技能だったりしたら最悪だ。

 武姫にも使えない技能を扱うなんて……、なんて話になりかねない。


 う、うーん。

 なんで青ロン毛さん達は武姫連れてきてないの?

 サンプルを、行動サンプルをください!


 僕が悩んでいると、青ロン毛さん達はロックドールの残骸を道の隅に片づけて歩き出す。

 あれって、やっぱり消えないんだ。

 うーん……何処から何処までが規格外なのか分からないと動きづらいなあ。

 チートなんて実装されてない身体だと思ってたけど。

 考えてみるとゲーム仕様で動けるっていうのは、それ自体がチートなのかもなあ。


「ん……?」


 そんな事を考えていると、突然の地響き。

 ガラガラ、という何かが組み上がるような音。

 上から見ているとよく分かる。

 ロックゴーレムだ。


 巨大な人型モンスターであるロックゴーレムは、耐久力も防御力も高い。

 動きは遅いし火属性に弱いし水属性だって効く弱点だらけなんだけど。

 正直、ロックドール2体に手こずっていた人達には厳しいだろう。

 ……まあ、僕も厳しいけど。

 ともかく、ここは逃げの一手が正解だろう。


「ロックゴーレム……このタイミングでか!?」


 青ロン毛のお兄さんが慌てて剣を抜くけど、すでに疲労の色が濃い。


「……くっ、やってやろうじゃないの!」


 杖を構える魔法使いのお姉さん。

 やる気は充分そうだけど、うーん。

 正直、勝つ姿が浮かばない。

 たぶん、全力の状態なら勝てるんだろうけどなあ。


「んー……」


 僕は顔を覆うファントムマスクの感触を確かめて。


「とうっ!」


 崖から、思い切り跳んだ。

 そしてそのまま、スキルを発動する。


「コード、セット!」


 セットしたスキルは、ライトニングキック。

 青白く輝く雷光を足に纏い、僕は落下する。

 あの時、フォレストゴーレムには通用しなかった。

 でも、今の僕でお前くらいなら!


「ライトニングゥゥゥ! キィィィィック!」


 ズドン、と。

 あの時よりも更に強く輝く光となった僕が、ロックゴーレムを弾き飛ばす。

 その勢いのまま、僕は背後に回転ジャンプ。

 着地して、ファイティングポーズをとる。

 今のはトドメ演出が出なかった。

 くぅっ、やっぱりゴーレムってタフだなあ……。


「い、今のは……」

「気を抜かないで! まだ動くよアレ!」


 青ロン毛の人に、僕は振り向かないまま叫ぶ。

 その言葉通り、ロックゴーレムは立ち上がってゆっくりとした動きで近づいてくる。

 でも、ゆっくりとしたゴーレムの動きの間にこっちだって準備は整う。


「我が心は燃え盛る炎の如し。故に、我が魂より顕現せよ」

 

 そして、魔法使いのお姉さんの詠唱が完成する。


「燃えよ、増殖せよ、貫け、喰らい尽くせ! ファイアファランクス!」


 そして、生まれる炎の槍の群れ。

 それはロックゴーレムに次から次へと襲い掛かり、その身体を貫いていく。

 よおし、ダメ押しいっちゃえ!


「武器換装!」


 サンダーカノン、セット。

 闘神のガントレット、解除。


 メッセージと共に、僕の手にはガントレットの代わりに近未来的なデザインのカノン砲が出現する。


「いっけぇぇぇ!」


 サンダーカノン。

 魂力を消費し雷属性の攻撃を放つ武器。

 砲身から伸びる輝きがロックゴーレムに命中し、もはやボロボロの身体を蹂躙、破壊する。

 

 オーバーヒート!

 レベルアップ! レベル13になりました!

 レベルアップ! レベル14になりました!

 レベルアップ! レベル15になりました!


 響くレベルアップの音。

 経験値がそんなに高くない部類とはいえ、流石は僕のレベルより数段上の敵。

 そして、その一撃でサンダーカノンは一定時間使用不能になる。

 そう、サンダーカノンは弾を必要としない代わりに属性限定、しかもオーバーヒート確率が他より高いのだ。

 ……とはいえ、一発でオーバーヒートっていうのは運悪すぎな気もするんだけど。


「武器換装」


 闘神のガントレット、セット。

 サンダーカノン、解除。


 僕の手に闘神のガントレットが戻ってくる。

 またいつ次がくるか分からない以上、オーバーヒートしたままのサンダーカノンじゃ心もとない。


「や、やっちまったのか……ロックゴーレムを?」

「すごいです……」


 ジャックさんと治癒士の人の声が聞こえてくる。

 あれれ、おかしいな。

 その言い様だと、今までロックゴーレム倒した事が無いように聞こえるんだけど。


「さっきの技……もしかしてお前」

「やあ、危ないところだったね!」


 ジャックさんの台詞を遮って、僕はくるりと振り向く。


「僕は通りすがりのヒーローだよ! じゃ、そういうことで!」

「いいから待てよヒーロー」


 逃げようとする僕の肩をがっしとジャックさんが掴む。

 やだもう、ここは「アイツは何者なんだ……」とか言いながら見送ってくれてもいいじゃない!


「さっきのすげえ技……お前、武姫だろ?」


 ジャックさんは僕の肩を掴んだまま、ぐいっと引っ張って振り向かせる。


「良く見てみりゃ、お前の着てる服もトンでもねえ造りしてやがるし……最近の武姫ですらねえだろ?」

 

 ええ!?

 何それ、僕のセンスが時代遅れとか、そういう事!?


「ジャック、とりあえず肩から手を離せ……女の子だぞ?」

「……女の子かもしれねえが、武姫だぞ?」

「だとしても、助けて貰った側の態度ではないな」

「チッ」


 渋々といった感じで僕の肩から手をはなすジャックさん。


「あ、ありがとうございます」

「いや、礼を言うのはこちらのほうだ……俺はフリードだ。助けてくれて感謝する」


 青ロン毛さんの名前はフリードさんというらしい。

 他の2人のお姉さんは、フリードさんの後ろの方で僕をじっと見つめている。

 ジャックさんは不貞腐れた感じでロックゴーレムの残骸を調べ始めている。

 うーん、やっぱりフリードさんがリーダーなのかな。


「先程はジャックが失礼な態度をとってすまない」

「あ、いえ」

「だが、奴の焦りも理解してやってほしい」

「はあ」


 適当に頷いていると、フリードさんはジャックのフォローをし始める。

 仲間想いなんだなあ。


「俺達が探してた相手かもしれない奴が目の前にきたんだからな……俺だって、この幸運を神に感謝したい気分で一杯だ」

「はあ……はあ!?」


 え、探してたのって僕だったの?

 なんで!?

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