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2011年、小さな地球と卓上の世界(4)

 翌日、私はスタジオへ向かった。石川さんに会って、あの嘘の不可解な行動の原因を調査することを伝えようと思ったからだ。私はスタジオにつくと早速、石川さんを探そうとした。

 ところが石川さんの前に阿部さんの様子が気になったのだ。彼女が泣いているのだ。私はそばによって行って、青木君の話を聞くことにした。

「どうしたの?」

「彼女のシナリオの出来が良くないって掲示板で話題になっているのです」

私はそれを聞いて「そんなことで?」と言いそうになった所で止めた。


 こんなことは初めてではなかった。ゲーム制作時からたびたびあったのだ。彼女が書いたシナリオが監修の際に様々な手直しが入ったのだ。それについて彼女は落ち込んでしまい、泣き出したりして、しばらく作業が進まないことがあった。阿部さんは傷つきやすい子だった。

 もともと阿部さんの書いたシナリオは確かにアイディアが練られていた印象があった。RPGというカテゴリを見ても、一般的にストーリーは複雑化の傾向にある。阿部さんの書くシナリオもそういうものだった。

 ところが監修では全部書き直し、ボツになったものがある。たくさんのプレイヤーが来るのに、凝った演出を増やされると、いつまで経っても行列を裁くことができないためだ。またテレビでするゲームとは違い、レジャーという趣向がこのゲームにあるので悲壮感のあるイベントは徹底的に排除されたのだ。

 今回出来たのは非常にシンプルなシナリオだった。一昔前のRPGのストーリーをそのまま踏襲しているわけで、わかりやすいと言えばそうなのだが、一部のプレイヤーからはシナリオに対して不評なのだった。「ありきたり」とか「古臭い」とかそういう意見が多かった。


 青木君は彼女を慰めていた。私はとりあえず、彼女は青木君に任せて、石川さんを探すことにした。

「ところで青木君、石川さんはどこかな?」

「さあ? 今日は見てないですよ」

「そう。ありがとう」


 私はスタジオ内を探した。しかし石川さんはいなかった。そのとき、神谷君を見つけた。

「あ、神谷君。石川さんいないかな?」

「石川さんですか? 今日は午後からスタジオに来ますよ。どうかされましたか?」

「いや、石川さんにね、あの人形のこと私が調べるから、もう少しエキストラ雇うのを待って欲しいんだ」

「ああ、なるほど。しかし、もう二週間も城が閉鎖されていますからね。これ以上伸ばせるかわかりませんけど、一応交渉してみます」

神谷君は私の言うことに協力してくれた。

「ところで、阿部さんはどうです?」

神谷君は離れている阿部さんの様子を見ながら言う。

「結構落ち込んでいるね。しばらく立ち直るまで時間がかかりそうだ」

「そうですか、結構いろんな評判が立っていますからねえ」

神谷君は腕を組んで悩ましげに言う。

「そうなのかい?」

私は気になって聞いた。

「そうなんです。まず行列がとても多いこと。待ち時間が長いというのが問題です。家庭用ゲーム機ではそういうこと起こりませんから」

「短時間で順番を捌いても無理か」

「行列を短時間で解消しようと対策は練ったんですが、今週から別の問題が出たんです」

「どんな?」

「ダンジョンの一階層、十分までとしちゃうと、攻略の時間が結構少なめですよね。そうなるとモンスターと戦闘しない人が出てくるんです。一度に五十人くらいプレイしていますから、そうなってしまうんですよ」

神谷君は松浪さんと同じようなことを言った。

「そうすると、レベルの上がらない人が出てきちゃったんです。次の攻略が難しくなってしまったんです」

「レベル上げとかは?」

「フィールドのモンスターよりも圧倒的にプレイヤーの数が多くて、なかなかモンスターと戦闘する機会が無いのです」

私は昨日のフィールドの様子を思い出した。

「正直、今のところ、ゲームは家のテレビでした方が良いみたいな評価で。あのソフトに梱包されている武器も持たないで、ただフィールドを散策するプレイヤーとか街を観光するプレイヤーが目立ってきましたね」

「最初からテーマパークだって言っていたものね」

私は神谷君のいうことに、そう答えた。

「そこで、テーマパークらしく、何かイベントを考えろと。今日は社内でそういう話が出たんですよ」

私は石川さんが何かいいアイディアがあれば欲しいと言っていたことを思い出した。


 私は神谷君と阿部さんのところへ行った。そこで打ち合わせブースで、三人で話そうと提案した。

「阿部さん、今回のシナリオは仕方ない。シンプルな物を会社は求めたわけだから、君は悪くない。もう修正はきかないし、忘れてしまおう」

私がそう言うと、阿部さんは小さく頷いた。

「ここで名誉挽回のチャンスだ。今、ゲームがピンチなんだ。そこで何かイベントとか無いかな? ほら、コスプレ大会なくて寂しいとか言っていたじゃないか」

少し阿部さんの表情が変わる。

「僕には正直、コスプレ大会なんてよくわかっていない。どういう風に運営すればいいか。でも君は盛り上がると考えているんだろ?それを神谷君に教えてやってくれ」

私は椅子から立ち上がって、神谷君の肩を叩いて言った。

「あとは神谷君に任せた」

「いいえ、ありがとうございます」

神谷君はそう言って、阿部さんの話を聞き始めた。



 私は大迫さんの事務所に向かうことにした。ユートピア98のことを聞き出すためだ。

事務所に付くと知らない受付の女性がいた。新しく入った人なのだろう。彼女に大迫さんのことを伝えると応接ブースへと連れて行かれた。その際に知っている元同僚を見かけた。彼らも手を上げて挨拶をする。


 数分待っていると、大迫さんがやってきた。

「いや、久しぶりですね。ついに事務所がつぶれちゃったかな?」

大迫さんは冗談を言った。

「まあ、何とかやっています」

私は笑顔で答えた。

「どうですか?ゲームは?」

大迫さんはヴンダーアイランドのことを聞いた。

「実はその件で、私のついた嘘が不可解な行動を取り始めたのです」

私は今回の話を大迫さんに伝えた。


 大迫さんはだいたいの内容を把握したようだ。

「なるほど、要するに赤羽君の嘘つきとしてのイメージが今回、原因になっているのかと思っているわけですね」

「はい。そこで十年前に配信されていたユートピア98を大迫さんが知っていると聞いたんです。今回の件とユートピア98には何かしら関連性があるかと思いまして」

私は話の本題に入った。

「ユートピア98ですか。確かにあれも良くできていたゲームでした。国見君も石川君も元気していますか?」

「ええ、元気にしています。やはりご存知なのですね」

「はい。私はあのゲームに招待されたわけですから。あの村人の嘘と、兵士の嘘は良く出来ていましたね。赤羽君と同じような能力を持つ嘘つきの方でした。たしか大きいトラブルがあって配信停止されてしまったそうです。残念です」

「そのゲームも嘘つきの込めたイメージが原因で人形が暴走したと聞いています。大迫さんは何かご存知でないかと思いまして」

「残念ながら、その話は聞いただけでよく知らないのですね。憎悪のイメージを人形に流し込んでしまって暴走し始めたとは聞いています。今回の赤羽君のケースと違って、こっちは大事件になるところでしたが、仕組みとしては同じものかもしれませんね」

「そうですか」

大迫さんにもわかりそうはなかったので、少し私は落胆してしまった。


 私はしばらく下を向いて考え込んでしまった。人形が暴走するほどの憎悪はどういうものなのだろう。それは相当の怒りだったのかもしれない。一方で私の人形は一体どうしたというのだろう。ここ半月、同じ考えが私の頭で展開されている。

「お会いになって見ますか? その嘘つきの方に。今は嘘つきをやめていらっしゃるのですが」

大迫さんはそう言った。私は少し考えてみたが、「お願いします」と頼んでみた。

 大迫さんは応接ブースを出て行った。そしてしばらくしてまた戻ってきた。

「こちらが彼の連絡先です。彼に話すと相談に乗ってくれるそうです。彼だったらひょっとすると何か知っているかもしれませんね」

「ありがとうございます」

私は立ち上がって、事務所から出ようと身支度をした。


 出口付近まで行くと、昔の同僚が私に話しかけてきてくれた。みんな元気そうであった。ゲームの出来はどうだとか、嫁はもらわないのかとか、そういう話をした。最後に大迫さんにこう言われた。

「赤羽君、君は嘘つきに対して独自の見解を持っている。君が私に採用面接のときに話したことだ。そういう心意気というのですかね、そんな強い気持ちがあるとすれば今回の問題も解決に向かうでしょう。そして今後の嘘つきとしての仕事にも大きい意味を持ってくるでしょうね」

「はい、ありがとうございます」

「君が採用面接で言ったこと、それを忘れないようにしておけば、きっと道は開けます。」

大迫さんがそう言うと、受付の人が缶コーヒー半ダースのセットを渡してくれた。


 私は採用面接のときに大迫さんに一体何を言ったのだろうと考えていた。もう十年以上も前だから忘れてしまっていた。しかし、何か大迫さんが感心したようなことを言った記憶は確かにある。私はすっかり内容を忘れてしまっていた。嘘つきはなんとか、そう言うことを言ったのだろうけど、思い出せないのだ。確か聞こえのいい表現を使って話した気がする。

「嘘つきは… …」

そのあとに続く言葉を思い出せなかった。



 私は大迫さんから連絡先のメモを見た。名前は「黒崎達也」と書いてあった。私は携帯電話に連絡を入れた。大迫さんから話を聞いていることもあって、すぐに彼は電話を取った。私は用件を伝えると、黒崎さんは快く応じてくれた。私たちは簡単に待ち合わせ日時を指定して落ち合うことになった。

 

 夜自宅に帰るとヴンダーアイランドについてネットで検索してみた。ネット通販のページなどが出てくるわけだが、その中にゲームの評判について調べてみた。

 プレイの評判については正直評判が良くなかった。長い時間待たないといけない、モンスターと戦えない、歩きで移動するのがしんどい、体動かすくらいなら家でゲームしたほうが良い、せっかく宿屋とかあってムードはあるのに満室で宿泊できない、そういう評判が目立った。

 好評価といえば、リアルな風景、モンスターだった。しかし見ている分だと面白いという程度だった。プレイするよりかはやはり観光目的とかテーマパーク感覚で楽しんだほうが良いという意見が多い。

 ライターのコラム、一般のプレイヤーが書くブログ、投稿動画、様々な評価が飛び交っていた。私はどこか複雑だった。嬉しいとも、落胆も無かった。言われたとおりに作ったわけだから、自分は悪くないと思える逃げ道があるからだろう。

 黒崎さんはどうだったのだろうか。全てを自分たちで考えて、作り上げるゲームが不評だったら。私は不評を突きつけられたことがあまり無いのでわからない。不評でそして自分のゲームを荒らされたりしたら、きっと良いとは思えないだろう。そういうことを考えながらパソコンの画面をじっと見つめていた。


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