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小さな地球 / 卓上の世界  作者: 板日優子
小さな地球の始まりと卓上の世界の終り
23/44

1998年、卓上の世界(2)

 僕が目覚めたとき土曜日だった。でもそれはどうでもいい事だった。ノゾミは今日来るんだろうか。僕にはそれが一番気にかかっていたことだった。僕は村の中をうろうろせず、今日は南の門でずっと彼女を待とうと思った。石造りの砦には何も変化は無かった。

 僕は家に戻ることにした。そのとき、僕は家の中の変化に気付いた。僕はテーブルの椅子に座ろうと思ったのにそれがひとつ無かった。家には二つ椅子がある。そのうちのひとつが無いのだ。僕が起きたときから最初から無かったんだろうか。僕は椅子を探した。部屋には無かった。僕は次に家の周りを探した。それでもなかった。家の中では僕がひとりで過ごしている。椅子は二つも要らない。でもノゾミが来れば必要になる。でも無いのだ。それはもうノゾミが来ないことを暗示しているようなことに感じた。


 僕はそう考えるとまたノゾミのことを考えた。南の門へ行ってずっと彼女がやってくるのを待っていた。すると石造りの砦から四人の旅人らしき人たちが出てきた。男性二人と女性二人だった。タツヤやノゾミのような格好をしている。ノゾミの言っていた人たちだろうか。

 彼らは村の入り口へと近づくにつれて、はしゃいでいるように見えた。入り口まで来たとき、彼らは少々戸惑っているように見えた。

「こんにちは。ようこそ、シュタルトの村へ」

僕が言うと彼らは驚いていた。四人ともすげえ、喋ったとか本物そっくりだとか言っている。僕は彼らを案内するために村の中へ先導して歩いた。でも僕とは違って周りの景色や様子に気を取られていて歩きが遅い。


 村長の家に着くとやはりはしゃぎようは一応落ち着いてはいるが、黙って話を聞いている様子ではなかった。「女性の一人がフォイヤの炎って?」と隣の男性に言うと、それは必要なものでなどと耳打ちをしていたりする。村長が世界のカギのことを話すと、いかにも冒険らしいとか言うのだ。彼らも予言の戦士なのだろうか。ノゾミもそうだったが彼らにも戦士として勇ましいようなものは全然感じられなかった。


 次は店を案内した。武器屋ではやはりここでも、村長の家にいたときよりも大きな声で騒いで武器を選んでいる。それは楽しそうに見えた。防具屋に至っては試着するだけして何も購入しなかった。僕は買わない理由を聞いてみたが彼らは恥ずかしい、あんなの着ることは出来ないと答えるのだった。結局彼らは武器と道具だけ購入して行った。僕は彼らの装備が中途半端なのを疑問に思った。何が恥ずかしいんだろうか。恐ろしい魔物がいると言われているのに、あんなに薄着の服装でよかったのだろうかと思った。彼らは畑やら教会などを見物して村の人にも話かけ、出発には長い時間がかかった。


 僕は北の門まで彼らを見送った。小高い丘を登っていく彼らを見て、あの人たちは予言の戦士じゃないと思った。ひょっとすると彼は生きて帰って来れないのかもしれないと僕は考えた。


 ひと仕事を終えたので僕はまた椅子を探す作業に戻ろうと思った。そのとき南の門を見るとまた別の旅人がやってきている。男性三人だった。僕は彼らのところへ行きまた挨拶した。やっぱりさっきの一行と同じではしゃいでいる。それは村長の家でも店でもずっと同じだった。予言の戦士と言えどもあまりにも品が無いように感じられた。結局村長の話をよく聞いていないらしく、僕がこれからの試練を説明する有様だった。彼らも村の様子が珍しかったようだが、さっきの一行とは少し違っていた。村の外にいつもいる親子にも興味心身で見ている。三人のうちの一人が母親の体に触っている。それを見た残りの二人が大声で笑っている。そうしているうちに残りの二人もその母親の体に触り始めた。体は冷たいとか、でも柔らかいとか話し合っている。服でも脱がしたらどうかとも言っているが、それはさすがに止めておけとか話し合っていた。僕はそう言う様子を見ているのに彼らは気付き、さっさと北の門の出入り口へといった。僕は彼らも駄目なのだろうと思った。


 それからも同じような旅の者がやってきた。それは二人から四人までの集団で僕はそう言うのが来るたびに村を紹介してまわった。集団によっては反応も様々だった。村長の話を黙って聞く人たちもいたり、武器と防具もきちんとそろえる人たちもいた。僕の案内にきちんとお礼をいう人もいた。そして共通しているのはだいたいの人が、よく出来ている、本物みたいだというのである。似たようなことをタツヤとノゾミも言っていたような気もする。彼らも何か知っているのだろうか。

 そうしている間に最初に来た四人組が帰ってきた。一応彼は生きて帰って来れたらしい。彼らは村長の家に入っていった。そしてしばらくすると出てきた。四人組のうちのひとりが手に鍵を持っている。それは世界のカギだった。僕は一応確認のために洞窟の宝玉を取れたのか聞いてみた。すると彼らは取れたと答えた。まだ序盤だから簡単だとも言うのだ。僕は不思議に思っていった。すると彼らのうちの女性がこの先には何があるのかと聞いて来たので、ウルストの街への道を教えてあげた。


 その次はあの品の無い三人組が戻ってきた。やはり彼らも村長の村へ行き、世界のカギを握っていた。彼らもあの試練に合格したようだった。僕は何人予言の戦士がいるのだろうと不思議に思った。僕は彼らをじっと見ていると、そのうちの一人が僕の視線に気づいた。舌打ちをしながら僕をにらんできたのだ。もうひとりが彼の肩をつかんで抑えた。おい、止めておけよと小さい声で言うのが聞こえた。どうやら僕が彼を見ていることが気に食わなかったらしい。


 そのあともあの洞窟に行った集団が戻ってきた。そしてきちんと宝玉を持って帰ってきた。みんな予言の戦士だった。彼らの中にはさらに北を目指す者もいたり、南の石造りの砦に戻って行ったりする者がいた。またわからないことが増えた。僕は椅子なんてどうでもいいと思った。

 今日はいろんな人が来た。それはタツヤともノゾミとはまた違う人間だった。それぞれ様々な人たちがいた。でも僕は今日の事を楽しいとはあまり思わなかった。不思議とはまた違う。また別の新しい感情が湧いてきた。



 翌日の日曜日も旅人がやってきた。翌日の土曜日もそうだった。僕は旅人たちに村を紹介した。そして毎回彼らは予言の戦士になっていくのだった。しばらく数日そういうことが続いた。新たに来た旅人たちと、ウルストの城にやってきた予言の戦士が戻ってきたりして村は次第に活気付いていた。ただ村人の反応は何も変わっていないし、予言の戦士は一方で騒いでいるといった風でそこには奇妙な温度差を感じた。僕は一方でウルストはどうなのだろうと思った。ヨウスケはこの状況をどう感じているのだろうか。

 村には毎日予言の戦士が来ていた。だいたい顔も覚えてきた。彼らにはあまり旅に出ている様子は無い。村の外へ出てはなにやら球のようなものを蹴ったり、投げたりしている。それは遊んでいるように見えた。そばでは食事をしているような人もいたり、口には煙が出ている。それは何かわからないが、煙の出るちいさな白い棒状のものを咥えていたりしている。僕には予言の戦士が持っている物がとても珍しかった。特に光が出る小さな箱。これは私に向けられたり、隣に女性が立って、もうひとりの箱を構えている人に動かないでとか言われる。ときには小さな覗き窓のようなところから彼らを覗いて、箱の一部分を押すように言われたり、奇妙なことを頼まれることがあった。次第に新しい旅人が来なくなり、村の紹介をすることは無くなった。そして変わりに不思議な小さな箱を操作するように頼まれるほうが多くなった。



 ある日、女性二人組の予言の戦士に話しかけられた。僕はまた小さな箱かと思った。ところがそうじゃなかった。話によればウルストの街がゴミで大変散らかったり、街の人が顔に落書きをされていたりするというのである。そして僕にどうすればいいのかを聞いてきた。僕は村の外には出られない。街にヨウスケという兵士がいるから彼に聞くといいと答えた。ついでに僕は彼女たちに魔物の仕業かと聞いた。でも彼女たちはやっぱり駄目だねとつぶやいてあきらめたように帰って行った。

 僕はヨウスケがどうしているのだろうと思った。彼女たちの話によれば、どうやら街が大変な様子になっていると言っていた。僕は心配になり始めた。僕は小高い丘の手前で遊んでいる予言の戦士を見た。あの辺には魔物なんて出てこないようだった。楽しそうにいつものように弾む球で遊んでいる。


 すると本当に久しぶりにタツヤが村にやってきた。彼は僕にではなく、あの遊んでいる予言の戦士に向かって走っていった。僕は何事かと思い、北の門まで行って彼の様子を見ていた。彼は何やら話し、お辞儀をしている。あれは何か頼みごとをしているようだった。予言の戦士は遊ぶのをやめて何やら準備し始めた。どうやら旅を続けるらしい。

 タツヤが戻ってきた。そして僕に話しかけてきた。

「いや、こんにちは」

タツヤは少し疲れ気味で言った。

「何を話していたんですか?」

「いや、ここでボール遊びはやめてくださいということと、タバコは吸わないで下さいってね」

僕はボールとタバコというものはよくわからなかったので彼に聞いた。彼は忙しいらしく簡単な説明で済ましたが、だいたい僕には理解できた。

「予言の戦士から、ウルストの街が大変だって聞きましたよ」

「どういうことだい?」

「いや、なんかゴミが散らかっていて街の人に顔の落書きがしてあると聞きました」

僕はさっきの女性二人組みのことを教えた。するとタツヤさんは顔色が変わった。

「わかった。じゃ、僕は行くね。ゴミとか散らかしている人がいたら注意して」

そう言うと彼は南の門へと向かって走り去った。僕はノゾミのことを聞こうと思ったがそんな暇は無いようだった。

 夕方にはまたあの小高な丘の手前で人が遊んでいたりしていた。この日あたりから村の様子が次第に変わっていった。


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