第6話*心のお礼
気がつくといつの間にか眠っていた。
体を起こすとまだだるい。
カーテンの仕切りはそのままきっちりと閉まっていた。
カーテンを開けると保健室には誰もいなく、あたし1人だけだった。
頭の痛みはもうとっくにひいた。でもまだちょっとガンガンするかも・・・。
あたしはボーッとしてまた保健室の天井を見つめた。
ガラッ。
「!!」
あたしはびっくりして布団を頭までかぶった。
コツコツコツ・・・・・・・。
耳を澄ませて床に響く足音を聞く。
先生が履いているようなスリッパの音ではない。生徒が履いているシューズの音だ。
その足音はだんだんあたしの方へ近づいてきて・・・止まった。
飛び出そうなほど動いているあたしの心臓。
シャ――――・・・。
あたしの隣の仕切りのカーテンが開いた。
あたしはまぶたを固く閉じる。
「寝てるのか―――・・・」
この声にあたしは布団の中でパッチリと目を覚ましてしまった。
この低くい声・・・まさか・・・。
その声の主は仕切りのカーテンを閉めた。
あたしはようやく暑苦しい布団の中から顔を出すことができた。
が、
シャ――――・・・。
再び仕切りのカーテンが開いた。
「!!」
あたしも再びあわてて布団をかぶった。
あたしの横で立っている人は、あたしの頭に手を伸ばしてきてさすった。
そして――――――耳元で声が聞こえた。
「こんななるまで頑張んなよ。あとは俺に任せとけって」
その言葉に息が詰まりそうになった。男嫌いの症状が表れ始めている。
体が少し震えてきている。
「寝ていても『男嫌い』はあるんだな。大丈夫、俺が治してやるから」
声の主はあたしの頭をポンポンッと軽くたたくとカーテンの仕切りを閉めて、保健室から出て行った。
急いでベッドから起き上がった。
頭の痛みもない。ガンガンもしない。
時計を見ると3時10分。さっき5時間目が終わった後だった。
あたしは教室に戻ろうとした。
でも・・・あの声って本当に・・・。
あたしを運んできてくれた人って・・・。
保健室から教室までの道のりは、いつもと違って長かった。眠った後の校舎は初めて来た学校風景だ。
途中左右の壁にぶつかりながらもようやく教室のドア前に辿り着いた。
あたしが教室に静かに入ると誰も反応しない。
帰る準備をする人でいっぱいだった。
でも“あいつ”は違った。
「やっと帰ってきたの?寝ぼすけさん」
斜め右後ろには川崎がひじをついてニッコリしていた。
あたしは小さくうなずいた。
「啓!!さっきどこ行ってたんだよ!」
横からはいきなり北島が川崎に飛び込んだ。
「トイレ行くなら俺も一緒行ったのに〜!!」
北島は頬を膨らます。
「トイレじゃねぇよ・・・ちょっと遠出してきた」
「遠出・・・?」
川崎はあたしと目が合うと笑った。
「重かったぞ!お前!」
あの声・・・やっぱり。
男子の前ではめったに笑顔を見せなかったあたしも笑った。
急に元気が出てきたから。
ストレスなんてどうでもいい。なんかスッキリした。
―――――――あたしは笑顔でお礼を言った。
――――――――――言葉じゃ言えないから、心の中で小さく。
ありがとう。
運んできてくれてありがとう。
心配してくれてありがとう。
『男嫌い』、治してくれる?
・・・・・・川崎―――――――――――――――ありがとう。