第46話*形
俺はバレンタインのお返しを買いに来た。
結構数はもらったけど、たった1人のためだけに来た。
「これください・・・」
あいつが好きそうなのってこんなんかなぁ〜??
正直恥ずかった・・・・。
周りはみんな女子ばっかでジロジロ俺を見ている。
包みを受け取るとそこからとっさに抜け出した。
「いつ渡そう、コレ」
迷ったあげく電話した。
『神崎 陸』に。
『もしもし?』
「今ドコ!!?」
『役場前・・・』
おっしゃラッキーすぐ近くじゃん!!
「待ってろ!そこ動くなよ!」
俺は神崎の返事を聞かずに電話を切った。
すぐに走った。
今日渡さないと、ずっと後悔すると思ったから。
役場前に着くとすでに俺の息は荒れていてた。
「川崎・・・」
目の前で目を丸くして立っていた神埼。
「ゴメン、忘れてたんだ。コレ、あの時のお返し」
俺は今日買ったばかりの箱を渡した。
すると突然泣き出したので俺はあせった。
「泣くなよ・・・中身、開けてみ?」
とりあえず中身を見てくれよ。
俺が買った指輪を見ると、神崎はメッチャ嬉しそうな顔したから、思わず言葉が出た。
「それでさ・・・俺さ・・・」
俺・・・なんて言おうとしたんだ?
そのあと何を言葉にしようとしたんだ?
「あ、その前に・・・その指輪、俺が付けてやるから・・・」
十分な言葉で俺の気持ちを伝えなくてもいい。形で分かれば、いいんだ。
「え・・・いいよ!自分ではめられるし!」
俺はひっくり返そうになった。
普通そこははめてもらうだろ!!
「俺がはめたいんだ」
俺はリングを手に取った。
今からすることを知っているなら、神崎も俺の気持ちが分かるだろう。
「お前、左の薬指につける指輪のコト、どういう意味か知ってるか?」
あっと驚くような顔をされた。
「え・・・?」
眉毛は『ハ』の字。
何だ・・・知らないのか。
正直、ホッとした。
「あのな・・・エンゲージリングっていうんだよ・・・」
本当にいいのか?俺。
こんな中途半端な形で気持ちなんて伝えられ・・・
いや、伝えられなかったんだ・・・。
カシャン。
俺は思考に集中していたばかりに手の動きについていけなかった。
リングが落ちた。
「あ、やべ・・・。買ったばっかなのに・・・」
この時、指輪さえ追いかけなければ、すべては始まらなかったのに。
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痛かった。
神崎の声が聞こえた。
泣きそうな声。
俺がなぐさめてやるよ。
だから・・・泣くなよ?
俺が『男嫌い』治してやるって言っただろ・・・。
俺、このまま死ぬのかな・・・。
ならさっさと言った方がよかった・・・。
『お前のこと、好きだ』って・・・・。
神崎・・・ごめんな・・・?