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第40話*『たらし』の誕生

「啓ー!!遅刻するわよ!」


いつもどおりの母さんの声。


今日から俺は中学1年生。


最近まで最高学年の6年生だったのにまた下っぱの最小学年に戻ったのが気に入らない。


先輩と呼ぶものには敬語扱い。しかもケンカしたら内申書というものにひびく。


そんなの気にしてたら、かっこ悪りぃ。


毎日先輩になるまでおどおどした生活送んなきゃなんねぇのかよ。


そんなのごめんだ。


ワックスでつんつんに髪型を上げて、学ランホック・第一ボタンははずしておく。


これが俺流のモテ方。


こうすれば自然と、女子は寄ってきた。




「あ、啓!」




隣にいる海も俺仲間同然。2人で悪になろうかと笑って誓った。


でも、せっかく中学生という少し大人の響きになれたんだから、女の子ともいっぱい遊びたい。


いわゆる『たらし』


でも、俺は別に構わない。


1人の女に縛られるのはお断り。



“あいつ”が現れるまでは。








“あいつ”は小学校のミニバスケットボールクラブで知り合った。


初めて会ったのは6年生の夏。


まぶしいユニホームに身を包んで彼女はまぶしい笑顔で俺のメアドを聞いてきた。


でも、期待はずれにほかの男子のメアドも聞いていた。


「つまんねぇの」


“あいつ”はかわいかったから、俺は少し一目惚れしてしまった。


まぁそれも、一瞬の事。


メールも全然しなかったし、もう関係ないも同然・・・。


でも、“あいつ”はちゃっかり俺の席の隣に座っていた。




「あ、もしかして、川崎啓くん??あたしだよ。倉島夏海!」


彼女の初対面のあやふやな話しかけ方に俺は思わず心が動いた。


『たらし』よりも、この子を俺のものにしたい、と。










「好きだ!!」








夏休みが明ける頃だった。


部活の帰りにバッタリ会った“あいつ”に俺は告白した。


遊びなんかじゃない。マジで本気だった。


夏海は何一つ表情を変えずにこう言った。





『付き合おう』



笑顔で夏海は言った。


それが、俺の後悔への始まりだった。





夏海は俺の自慢の“彼女”だった。


クラスのほかの女子とは比べものにならなかった。


しっかりしていて、おとなしくて、かわいくて、口数は少ないけど、守ってやりたい!と思ったのはこの子が初めてだった。


俺からスキンシップをすると夏海は喜んで受け止めてくれる。


そんな夏海が、俺は大好きだった。




1ヶ月が経つと、2人で遊びに行き、いわゆるデート。


最初は怖かった。でも指が触れた瞬間、俺は無意識に夏海の手をにぎっていた。


3ヶ月が経つと、2人で遊びに行った帰り際に背の小さい夏海は背伸びをして俺に軽くキスをした。


俺は感情がわいた。


ファーストキスだったから、怖かった。


でもそれも今終わった。大好きな夏海だったから嬉しかった。


もう1度したかった。もう2度目だから何も関係ない。


夏海からしたんだから、やってもいいんだと俺は思った。


感情が抑え切れなくなった俺は夏海に今度は俺からキスをした。


深く、感情のこもった、本物のキスを。




でも――――・・・・




「別れよう」




この一言が一瞬に俺の心を裂いた。


しかもこの直後、夏海は他の男子と付き合った。


俺よりも、優しくって、かっこよくて、完璧な人間と。


でも、そいつともすぐに別れたらしい。









こんな俺でも、何もかも初めてだった。


異性と感情的に手をつなぐこと。付き合うこと。キスをすること。


何もかも、夏海に託した『初めて』を壊された。


後から知った。夏海は『たらし』だと。


『たらし』の研修族の俺が、遊ばれた。


もう、俺にとって大事なものなんてない。


『初めて』は、何もない。


付き合うことも、手をつなぐことも、キスをすることも、本気で人を好きになることも。


大好きだった人に裏切られたショックは大きすぎてならなかった。


全ての感情も失ってしまった。












俺にとってはもう、誰にだって託しても変わらない。











もう、恋愛なんて、遊びなんだ。






かっこつけて女子に優しく接したら、勘違いヤローは俺のもとにほいほいついてくる。



“女”なんて、簡単だ。









人を本気で好きになることは、俺にはもうないだろう。

















こうして、『たらし』は生まれた。









啓の過去の記憶の一部です。



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