第34話*裏切りの正体
「おはよう。陸さん」
靴箱、あたしの横に“あいつ”が立っていた。
“陸さん”って呼ばれ方は少しぎこちなかったけどすぐに慣れた。
名前で呼ばれるの、初めてだったから。
「何か『男嫌い』って言うの懐かしいんだぁ。陸さんなんか覚えてる?」
川崎はニコニコしながら聞いてくる。
覚えてる?っていうか、あんたがあたしの『男嫌い』治すとかいってたじゃん!
と、言いたかったが
「ん〜、あたしもあんまよく覚えてないんだよね。川崎くん次第だね」
陸さんと呼ばれて呼び捨てで返すのが失礼と思ったから『くん』付けをする。
「そっか・・・」
やっぱホントのこと言ったほうが良かったかな・・・?
「やっぱ違う。川崎くんがあたしのっ・・・・『男嫌い』をっ・・・・」
「あ・・・」
え?思い出した?
「今思ったけど、俺のこと『川崎くん』じゃなくて『啓』でいいよ?」
え・・・??それですか?
「えと・・・あの・・・啓・・・くん?」
「あー、いや。呼び捨てでいいから」
け・・・い?
「刑?」
「漢字違うぞ」
よく分かるな・・・。
「・・・啓?」
「そうそう」
川崎・・・じゃなかった、啓は満足そうに答えた。
「俺の記憶はそんなにあせらなくてもいいから。陸さんの『男嫌い』を先に治そ」
「あっ、あたしも・・・『陸さん』じゃなくて・・・」
言葉が詰まった。
「じゃなくて・・・」
これ以上言えない。
「陸・・・でいいの?」
あたしが言う前に理解した啓。
あたしは首を縦に振った。
「俺、記憶は思い出せないけどお前のことたっくさん知ってるような気がするんだ」
手をあたしの頭に伸ばしてきたが症状が出ると気づいてすぐにひっこめた。
「・・・早く、治そうな?」
「うん・・・」
「あら、啓。おはよう。ついでに陸も」
夏海の登場だった。
夏海が来た瞬間あたしの心はギュッと縮んだ。
啓と一緒にいて、何もされないだろうかと。
「何で2人でいるの?」
「たまたま靴箱で会ったんだよ」
「今日はあたしを置いて行ったのによく言うわね」
「え?」
啓は夏海と学校に来てた?で、今日は置いていったの??
「ふぅ〜ん」
夏海の鋭い目があたしを捕らえた。
あたしは動けなかった。何も言えなかった。
そうだ、夏海は啓の『彼女』なんだ。
あたしはただの・・・・『友達』
最悪の場合、“それ”以下。
「俺、お前とは一緒には登校しないかもな」
「っ・・・!?どうしてよ?」
啓はその言葉にためらったが、自信を持ってこう言った。
「今の俺の記憶が、間違っているような気がするから」
「え?」
啓?それって・・・
「俺はお前を一目見て信じ込んだ。だから、お前が言う記憶すべてが正しいと思った」
「っ・・・・・・」
「ここにいる陸。お前はこいつが『たらし』とか言って、『男嫌い』でギャップを見せてどの男にも手ぇ出すって言ってたよな?」
え?何それ、あたしのこと!?
「だから、俺の記憶喪失を機にして俺の記憶を塗り変えて夏海が彼女だったのに陸が啓の彼女になってしまうって言ってたよな?」
えと・・・何のこと??
「でも、実際は全然違った。陸の『男嫌い』は嘘じゃなかった。涙も、苦しみも、笑顔も・・・全部本当だった。作り物じゃなかった」
これ・・・思い出してるの??
「夏海!!お前が俺を昔裏切ったやつだったのか!?」
え・・・それって・・・・。
「ばっかばかしい」
「え?」
夏海は開き直った。
「啓、あんたは今信じられるものはないわ。その子だって、いつ変な嘘をつくか分からないじゃない。あんたが本当に信じていたなら、記憶だってすぐ戻るんじゃないの?」
「それは・・・」
「答えは後でいいわ。ここで話すのも時間の無駄だし」
夏海は笑みを浮かべて、教室に戻った。
「お前は・・・・」
「え?」
「お前は・・・俺の記憶を塗り変えようとしてるのか?」
啓は突然聞いてきた。
「そんなことっ・・・・」
「やっぱ・・・早く思い出してぇよ」
「っ・・・」
「お前が本当にどういうやつなのか、思い出したいんだ!!」
啓はあたしの症状はどうでもよくなったのか、両肩をつかんできた。
「陸!お前はいったい・・・何者なんだよ・・・?何で俺の心がズキズキするんだよ・・・」
啓の真っ黒な瞳は、悲しげにあたしの瞳に訴えかけてきた。
更新がずいぶんと遅れてしまいました。
今回も少し短いですが評価をくださったら嬉しいです。
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