第33話*2度目の協力
雲ひとつない空をあたしは眺めていた。
左手の薬指には銀色に光るエンゲージリング。
もうこれはずしたほうがいいのかな?
さっきまで真奈美が隣にいたんだが部活で去ってしまった。
今、この屋上にはあたし1人。
頭の中では分かってる。
あたしは夏海に負けたんだって。
あたしはもう川崎の“恋人”にも、“友達”にもなれない。
せめて・・・“友達”ぐらいなりたかったな・・・。
「今思えば・・・川崎のことこんなに好きだったんだね・・・」
そうだ。今思えばだ。なぜか嫌いだった川崎に心が動いた。
それはいつ?学級委員になったとき?体育祭?夏休み?合唱コンクール?修学旅行?
たくさんあればあるほどの思いでほど細かいことが思い出せない。
何で“あいつ”にひかれたんだろう。
「川崎・・・あたし・・・どうすればいいのさ?今のあたしじゃ、何にもできない」
あたしはのどから声を出すのが精一杯になってきた。
大好きだよ?でも、伝えられない。
触れることさえ、近づくことさえ・・・あたしは、できないんだ。
またあたし・・・泣いちゃうのかな??
ポンポン。
「?」
誰かあたしの肩をたたいた。
真奈美かな?もう部活終わったの?そんなじか・・・
「!!」
肩をたたいたのは“あいつ”だった。
口元の端に笑みを浮かべていた。
「なーにやってんの?」
ズサササササッ。
ものすごい摩擦音を立ててあたしはその場から離れた。
「あ・・・あり?」
川崎は呆然としていた。
「どうしたの?ねぇ・・・」
川崎の手が伸びた。
あたしは小さく縮こまってしまった。
「え?俺に触られんの、そんなにヤダ?ひどいこと言ったから?」
あたしは首を横に一生懸命横に振った。
違う、違うの!
あたしは・・・・
「男・・・嫌いか?」
川崎が答えを口にだした。
あたしは何で?と川崎を見ているしかなかった。
「や・・・何で分かったんだろ。前にもこういう人いたような気がするから・・・」
川崎は頭をかく。
「誰か覚えてねぇんだけど、『男嫌い』って・・・」
川崎の記憶の中に“あたし”はいなかったわけじゃない。
『男嫌い』として“あたし”がいたんだ・・・。
「お前のこと信じてないわけじゃないんだ・・・。俺は誰も信じられなかったから。友達と好きなやつしか信じられなかったから。お前のことはどうしても・・・。でも、なんか懐かしいんだよ。お前のこと見てたら」
川崎のこの言葉は本当だった。
だって、川崎のこんな表情見たことなかったんだもん。
孤独で・・・寂しそうな。
「川崎っ・・・あたし・・・」
「なぁ」
あたしの言葉をさえぎった。
「お前の『男嫌い』治してやるから俺の記憶取り戻すの手伝ってよ♪」
地面にへたりついているあたしの前にしゃがんでニコリと笑いかけた。
あたしの『男嫌い』・・・治してくれるの?
「なっ、協力してくれる?」
川崎は握手を求めて手を伸ばしてきた。
でもあたしは手を伸ばせない。
「おっと、そうだったね」
川崎は手を下ろした。
今の川崎は『たらし』なんかじゃない。
嘘の優しさなんかない。本当の優しさだよ。
心の底から。
「協力・・・するよ」
「え?今しゃべっ・・・」
「川崎があたしのこと思い出してくれるなら、協力するから!!」
あたしはとうとう立ち上がっていた。
川崎にはその勢いは分かってくれたみたい。
CHUッ
「よろしくなっ、『男嫌い』!」
川崎の唇があたしの頬に触れた。
その瞬間、懐かしさと『男嫌い』の症状がよみがえってきた。
「うっきゃ―――――――――――!!!」
放課後の屋上に、あたしの叫びは大きく響いた。
川崎の心からの優しさ。
2度目の『男嫌い』を治すといってくれた川崎。
記憶を取り戻させるチャンスも出てきました。
陸のこれからの成長を見ていてくれたら嬉しいです。
これからも応援よろしくお願いします。