第29話*通じ合えたと思ったのに
『あんたさぁ、しつこい』
夢の中でこの言葉が何度も何度もこだました。
あたしって、川崎にとってなんでもなかったのかもしれない。
分かってもらうようなことも・・・できなかった。
ピーンポーン―――――――・・・。
ベルが鳴ったのであたしがドアを開けた。
眠い目をこすっていたがすぐに誰なのか分かった。
「真奈美・・・北島・・・」
2人が立っていたことには驚いた。
「啓に、ひどいこと言われたんだろ?すぐに分かるよ」
北島の口元が笑った。
あたしはあの聖なる日の悪事のことを真奈美と北島に全部話した。
「陸・・・つらかったねっ・・・・」
真奈美まで泣き目になっている。
「あの時・・・何て言おうとしたんだろう」
「え?」
「あの時・・・何て言おうとしたんだろう。あの時事故なんてなくて“あいつ”がこんな事にならなかったら――――・・・どんなに変わってたんだろう」
「その指輪がそうなの?」
真奈美はあたしの左薬指を見て言う。
「てかそれ・・・エンゲージリングじゃねぇ?」
北島が口をはさむ。
エンゲージリングって、意外とみんな知ってるんだ・・・。
「陸、それ自分ではめたの?」
「いや・・・あたしは普通右手の人差し指にはめるけど、川崎が・・・」
真奈美と北島の2人は、顔を見合わせた。
「啓は・・・それをエンゲージリングだって知ってたのか?」
「そうだけど・・・」
2人がどういう意味で聞いているのか分からなかった。
「何々?2人とも。エンゲージリングって何なの?」
「陸・・・意味知らないの?」
「え・・・うん」
「・・・『婚約指輪』のことなんだよ」
婚約??婚約って、結婚するときの?
それって、川崎・・・あたしのこと・・・
「啓は、たぶんもう陸ちゃんのこと好きだったのかもしれない」
川崎が、あたしのことを?
一瞬心がスッキリと晴れた。
でも、今じゃおそい。
「あ・・・でも――――・・・」
「何?海。どうした?」
「啓、自分の好きな奴分かったって言ってた」
「―――え?」
あたしと真奈美の声が重なった。
「それが・・・夏海なんだってさ」
あたしの心が曇った。
「夏海が昨日病院来て川崎にマフィンやったんだってさ。そしたらその味懐かしいって・・・。もう決めちゃったらしいんだ」
「そんな・・・」
雲行きが怪しくなってやがて大嵐になった。あたしの心の中は。
お互いの心は繋がっていたのに・・・。
それが思わぬ方向へ行ってしまった。
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