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第27話*啓の抵抗





「・・・え?」





『お前・・・誰?』




この言葉があたしの頭に残るだけ。


そして、嫌なほど繰り返す。


目の前にいるのに、こんなに近くにいるのに・・・川崎が・・・遠い?


お前誰って・・・さっきまで一緒にいたじゃない。


エンゲーリング??ゲージリング??とか訳わかんないこと言ってさぁ・・・。


忘れたの??





「川崎・・・どうしたの・・・?なんか変だよ・・・?」


「ヘン・・・?ってか俺、『川崎』っていうんだ・・・」


あれ?ホントおかしいんじゃないの??


自分の名前も思い出せないなんて・・・、






こんな場面、どっかで見たことある。


えっと・・・テレビだったっけ?


確か主人公とかが、“記憶喪失”になる―――――・・・。







「!?」



あたしはハッとして川崎を見た。


あたしを見て川崎は見慣れない顔をしている。


今にも・・・『お前誰?』と、もう1回言われそう。


川崎・・・ねぇ、まさか・・・。




「俺、何も思い出せない」



予想していた展開。これが本当になるとは思わなかった。


これは神様のバツ?だったとしたら何で??




―――――大切なものを救うためには、1つ大切なものを失わなければならない。



大切な存在の川崎を取り戻して、大切な思い出があったの記憶を失われた。



一時的な後遺症かもしれない。


そうも思ったあたしは明るくなろうとした。が、



「やっぱり、そうですか」


うしろから、感情のこもった悲しい声が聞こえてきた。


川崎の担当の医師だった。


手術後は輝いていた白衣が、今は黄ばんで見える。


ゆっくりと歩き、あたしたち2人に近づいてきた。


そして―――――



「啓くん、君の今の言葉からして君は、・・・・記憶喪失になっているよ」


川崎を横目で見つめると、話しが呑み込めていない状態で、ボサーっと医師を見ている。


そして、やっと口を開く。


「そうみたいですね」


川崎のうつむいた顔が目の神経をつたって大脳へ静かに移動する。


感情と共に。


そっと医師があたしの耳元で言った。


「君がどう言おうが彼は君を思い出せない。自分のことすら分からないんだから・・・」


ズキンッ!!


胸がきしむ音がする。川崎に分かってもらえないこの気持ち・・・。


2年生が始まったころと同じ。でも、何かが違う。



あたしばっかり川崎のこと知ってて、あっちが知らないなんて・・・辛すぎるっ・・・。


あたしばっかり川崎のこと好きで、あっちが忘れているなんて・・・切なすぎるっ・・・。


あたしばっかりで・・・川崎は真っ白なんて・・・そんなのって・・・。






耐えられない――――――――。




「川崎の記憶は・・・戻りますよね?」


「そんなすぐには戻りませんよ。最低1年弱はかかります・・・」


1年じゃダメだ。中学卒業を迎えてしまう。


ホントに・・・無理なの?


「川崎・・・思い出してよ・・・あたしだよ?」


「・・・誰だよお前」


「神崎陸だよ。覚えてないの??」


「覚えてるわけ・・・ないだろ」


「一緒に学級委員やってたじゃない。北島と一緒に・・・あたしからかったりして・・・」


川崎の唇が震えていた。何か言いたげだけど声を出さない。


「それと・・・ぇっと・・・あたしの『男嫌い』―――――・・・」





「やめろぉぉぉぉぉお!!」



静かな病室に、川崎の言葉はこだましそうだった。


耳にズキズキと残る川崎の声。


あたしは立ちすくんだ。


「ぇ・・・何で?」


あたしは眉をハの字にして聞いた。


川崎は今度は肩が震えていた。治まる気配が無い。


「おっ・・・お前・・・何なんだよ・・・」


「・・・え?」


「おっ、俺が記憶失ったのをいい事に・・・俺の記憶塗り替えようとしてるんじゃないのか!?」


「そんな・・・」


あたしは事実を伝えたかった。


元の関係に戻りたかった。


なのに・・・



「そんなことないですよ啓くん。陸さんは啓くんの記憶を早く取り戻してもらいたくて・・・」


「・・・そんなことない」


「え?」


「俺の今の記憶では信じていた奴に裏切られたんだ!誰も信じられないって自分が言ってるんだ!」


「啓くん・・・」


「俺は・・・俺は自分で記憶を取り戻すんだ・・・。絶対に。人からの記憶はもらわない!」


「川崎っ、でもそうしたら時間が・・・」


「それでもいんだよ」


川崎の目は、あたしを捕らえ、睨んでいた。


裏切られたと言うのは夏海のことだろう。


何で夏海の記憶はあるんだろう・・・。


それがあたしには傷を深める理由の1つとなった。


「俺いつ退院できんの?」


「あ・・・1週間もすれば大丈夫だろう」


「1週間も待てっかよ。明後日ぐらいでいいじゃん」


「啓くん、それ以上わがままをいうと生死にもかかわるんだぞ」


川崎は医師からの怖い忠告を受け、治まった。


「分かったよ・・・じゃあ我慢する。でも・・・学校は・・・」


そうだ!学校・・・あと少しでもう終了式になってしまう。


そしたらクラス替えもしてバラバラになってしまうかもしれない。


それは・・・ヤダ!!


「今日から3日ぐらいおとなしく寝てたら早く退院できるかもよ」


医師からのこの言葉を受けた川崎の目は輝いた。


「おっしゃ!じゃあ今日から3日間はずっと寝てる!病室から出て!」


川崎の言葉の通りあたしと医師は病室から出た。


そして川崎が寝るというのならあたしも帰ろうとした。



川崎の病室を静かに振り返りながら。



啓の記憶喪失という展開は予想外でした。


誰も信じないと言う啓の記憶を取り戻すのは難しい・・・。


陸は、啓の記憶を戻せるのでしょうか?


これからも応援よろしくお願いします。

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