第26話*運命
川崎・・・川崎??
どうして道路なんかに倒れてるの??
周りにある赤い液体は何??
何で、目を覚まさないの??
何で・・・何で―――――・・・。
ボトッ。
手に持っていた、川崎からもらった箱を落として、ようやく我に返った。
目の前の川崎の事態に気づいたあたしは、すぐに携帯を取り出した。
「えっ・・・ウソ、やだっ・・・川崎・・・・・」
電話を片手に川崎のもとへ駆け出した。
ひざをつくと血がついたが、今はそんなことどうでもいい。
川崎の無事を確かめたい。
ねぇ・・・川崎・・・。
川崎はまぶたを半分開けた。
「っ・・・」
あたしは呼びかけようとしたがその前にあたしのもとに、川崎の拳が突き出てきた。
「え・・・」
あたしは『男嫌い』なんて気にせず、川崎の拳に触れた。
パッと拳が開き、その中からは、さっきの指輪が出てきた。
「コレ・・・」
あたしが川崎の顔を見返したときには川崎は目を閉じ、眠っているかのように動かなかった。
拳は、また閉じ、指輪は見えなかった。
「やっ・・・やだ・・・川崎・・・!!ヤダ!!」
揺すりたいけど揺すれない。
キズがひどくなる気がして、怖かったから、川崎に触れることができなかった。
川崎は病院で集中治療室に運ばれた。
あたしは泣きつかれて手術中眠ってしまいそうになった。
川崎のお母さんはあたしの隣で泣き崩れ、あたしの片方の肩をギュッと掴んでいた。
『何で啓はこんなことになったの??』
『あなたは啓の何なの??』
あたしは・・・答えることができなかった。
こんなことになったのはあたしのせいでもあるし、あたしは川崎の何でもない。
嫌だ・・・嫌だ・・・川崎・・・。
縁起悪いけど、死んだりなんてしないよね??
あの時言おうとしたこと、聞きたいんだよ・・・。
俺・・・何なの??
何を言いたかったの??
聞かなきゃ・・・あたし、前に進めない。
このままで終わんないでよ・・・??ちゃんと、生きて。
川崎の手術は長引いた。
そして、ようやく7時間経った頃、川崎は治療室から出てきた。
「川さ―――・・・」
「啓!!」
あたしが立ち上がる前に、川崎のお母さんが川崎の元へ行った。
そうか・・・あたしが出る幕でもないか・・・。
あたしが行っても、どうしようもない。
一人の医師があたしのもとへきた。
「あなたが・・・陸さんですか??」
「え・・・」
あたしは医師の顔を見つめた。
何であたしの名前知ってるの・・・?
「啓くんはコレを渡したかったようですね。ずっと握り締めていましたよ」
そう言って、白い白衣のポッケから小さな袋を取り出した。
そしてそれを、あたしに渡した。
まさかと思って袋を破りそうな勢いで中身の正体をたしかめた。
「かっ・・・かわ・・・さき・・・」
同時に乾きかけていた涙が出てきた。
出てきたのは渡しそびられたあの指輪。
医師があたしの名前を知っていたのも分かった。
その指輪の内側に、『Riku』と刻みこめられていたから。
『結構高かったんだからな!大事にしろよ、『男嫌い』!!』
川崎のあの時の言葉がよみがえる。
ちゃんとあたしから伝えたい・・・。
『ありがとう』って―――――・・・
「安心してください、手術は成功しましたから」
医師の落ち着いた声。
あたしはその声で心の荷を降ろせた。
「じゃあ今から会って―――・・・」
「そうですね・・・。意識が戻るまで、ついていてあげてください」
「そうね、あなた陸さんですっけ?一緒についていてください」
医師の肩越しから聞こえた川崎のお母さんの声。
「目が覚めたとき、あなたがそばにいると、啓は喜ぶかもしれない」
お母さんの目は優しかった。
「・・・ハイ。喜んで」
川崎の病室は、広く、白く・・・むなしかった。
窓側にベッドがあって、そこにやっとめぐり会えた、川崎がいた。
数々のチューブで川崎の体は埋め尽くされていた。
「良かった・・・本当に・・・良かった・・・」
あたしは川崎の手を握り締めた。
手の温もりが、体全体に広がった。
聖なる日に奇跡は起こった・・・そういうコトになってた・・・
でも、それは・・・違った・・・。
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病室の外では川崎のお母さんと、医師が話していた。
「啓の・・・啓の普段の日常生活には害はないですよね?」
川崎のお母さんは戸惑いながらも聞く。
「えぇ・・・ですが・・・」
医師のその一言の接続語に、川崎のお母さんは不安を抱いた。
「事故のショックで頭を強打していて・・・」
「そしたら・・・そしたらどうなるんですか・・・」
「・・・それは―――――――――・・・」
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暗い病室の中で、あたしはいつの間に眠っていた。
「あ・・・もう夜なんだ・・・」
窓越しに星を見つめた。
「星が奇麗・・・」
あたしの夜の記憶はこれだけ・・・あとは、意識がない。
いつの間に、眠っていた。
そしていつの間に日差しがにまぶしい朝になっていた。
「今何時だろ・・・」
あたしはベッドにうずめていた顔を上げた。
「!!」
顔を上げたら川崎が目を開いていた。
何で起こしてくれなかったの・・・??
起きたなら早く起こしてよ・・・。
でも様子が変だった。
目を開いたままうつろで視線がまっすぐを見つめている。
「・・・目ぇ覚めたんだね・・・良かった・・・」
川崎に話しかけるが川崎の反応はない。
「・・・川崎??」
それと同時に肩をゆすった。
「っ・・・」
やっと気づいたのか、あたしに視線を向けた。
そのままジッとあたしを上から下まで見ていた。
何で喋らないの?何か言ってよ・・・『たらし』のように、やさしい言葉をかけてよ・・・。
何分ぐらい経ったんだろう。あたしと川崎はただ見詰め合うだけだった。
そして、やっと川崎は口を開いた。
「お前・・・誰?」
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『啓くんは頭を打ったショックで、記憶が失われているかもしれません』
「お前誰?」って、川崎の言葉の意味は何?