第24話*絶対に振り向かせてやる
一歩一歩を踏み出したい。
ちょっとずつでも近づきたい。
“あいつ”心に、近づきたい。
「お・・・おはよう」
この一言の勇気。
前のあたしにはかけらもなかったはず。
でも、やっと言えたんだ。
あたしの目の前にいる“あいつ”は、あたしのこの一言に目を丸くしていた。
当然、あたしは『男嫌い』だから。
男子に話しかけるのなんてもってのほか。あるわけなかった。
でも、今なら『勇気』がある。
「おす・・・」
返してもらった言葉だったから、あたしは笑顔になれた。
「お前・・・1日で変わったな」
川崎のやわらかな笑顔。
それって褒めてるの?
「良かったよ・・・お前の『男嫌い』消えて・・・」
そう言いながら、川崎はあたしの腕を掴んできた。
ゾワッ!!
鳥肌となみだ目。
「・・・そうでもないな」
川崎の呆れた声と顔。
あたしもつられてしゅんとしてしまう。
「それ直さないと俺なんて振り向かせれねぇ〜ぞ」
背中を向けてあたしに言う。
「・・・分かってるよ」
先を歩く川崎の後に、あたしは着いていった。
歩きながら、心の中で川崎の背中に言った。
絶対に、振り向かせてやる。
あたしは驚くように積極的を意識した。
頑張って川崎に話しかけたり、笑ってみせたり、部活前に『頑張って』と言ったり・・・。
メールもほとんど毎日した。
でも、あたしの体は耐えられなかったのかもしれない。
そんなことを一週間続けていたらあたしの体はおかしくなった。
無理に抵抗する体を扱っているから・・・限界になってきたのかもしれない。
3週間後の放課後、あたしは教室の中で死んでいた。(死んでないけどね)
窓際から2番目の机に座り、腕を組んで、中央に顔をうずませる。
もう意識がもうろう・・・やっぱあたし・・・疲れてるんだ・・・。
3週間も『男嫌い』の症状出すのがまんして・・・川崎といろいろ話して・・・。
ふっと、あたしの意識は消えた。
教室にはあたしの寝息だけが聞こえていたのかもしれない。
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部活が終わって俺は忘れ物を取りに教室に戻ってきた。
あとで着替えるから俺は学校ジャージ状態。
でも汗だくで着るのはさすがに暑かったからダセェけど腰に巻きつけていた。
教室に入ると、ぎょっとした。
人がいた。俺の隣の席に。
動かない状態からして寝ているのだろうか・・・。
でも俺は忘れ物を取りに来ただけ・・・。
あ・・・俺の隣の席って・・・。
早足で教室に入って俺の隣の人間の正体を見た。
「やっぱり・・・」
気持ちよさそうに寝息をたてていた神埼。
寝顔には俺の良心がチクッとした。
このまま寝かせといたほうがいいのか・・・
起こした方がいいのか・・・
腰に手をあて考えた。そのときパッとジャージに手がいった。
ジャージは今日は腰に巻いてただけ・・・汗くさくもないし、教室に置いていこうと思った。
「・・・・・・」
俺は結んでいたジャージをほどき、そっと神埼の背中にかけてやった。
「お前最近よく頑張ってるよな」
頭をそっとなでる。でも、『男嫌い』の症状は出ない。
自然に、笑顔が溢れてきた。こいつに『勇気』を分けてもらったのかもしれない。
「俺―――――・・・」
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生徒下校のチャイムが鳴ったとき、あたしはようやく目を覚ました。
「やばっ・・・!」
あたしは勢いよくイスから立ち上がった。
パサッ。
その時、一緒に何か落ちた。
「あれ?ジャージ??」
自分がかけたと覚えのないジャージ。
でも、そんな余裕なかったはず・・・。
「・・・!」
『川崎』
と、ジャージには刺繍してあった。
あたしは川崎じゃない。神埼だ。
なんで川崎のジャージがかかってるの?ココにあるの?
覚えがある・・・。
頭をさすられて・・・『お前最近よくがんばってるな』って、言われたようで・・・。
あとは・・・あとは・・・。
『俺――――・・・』何て言ってたっけ・・・分かんない・・・。
でも、このジャージは川崎がかけてくれたんだ。
あたしはそのジャージを握り締めた。
川崎の香りがする・・・。
正直、川崎の香りなんて知らなかったけど、あたしには分かった。
あ、でも変態じゃないからね・・・。
嬉しすぎて・・・困るんだ。