第20話*予告
『好きじゃない』でも、『嫌いじゃない』
『男嫌い』の症状がやわらいだ。
胸の力がふっと抜け、涙も出なかった。
“あたし”が、よみがえってきたような気がする。
本当の“あたし”
『男嫌い』じゃない“あたし”
普通に男子と話せて・・・何でもできて・・・
自分の気持ちを素直に言える“あたし”
『バレンタインデー』
それは去年のあたしには全く無縁のものだった。
でも、今年はそうでもないかもしれない。
渡せたらいいな、という気持ちから、渡したい。という気持ちに移り変わってきた。
バレンタイン当日は、もうすぐそこに迫ってきていた。
でも、『いらない』とか言われたらどうしよう・・・。
それでも、あたしは“あいつ”のこと諦めきれないんだよ・・・。
久々にあたしは川崎にメールを打った。
こんなに日にちがあいたのは、初めてだった。
『本文:あのさぁ・・・バレンタインチョコ、いる?』
本人に聞いていいかどうかわからなかったけど、あたしは勇気の塊を送った。
返事がどうくるのかが怖くて、怖くて・・・あたしはつい携帯から離れた。
でも、乙女心なのか、着信音が鳴るとすぐにとんでいった。
『本文:お〜久しぶりだな。チョコ??お前渡せんのかよ』
期待はずれだったけど、久しぶりのメールが嬉しすぎてならなかった。
『本文:分かんないけど・・・』
『本文:じゃあ無理だな』
なぜか心の中の『期待』は消えていた。
ちっぽけな返事は、『いらない』って思ったから。
『本文:そうだよねぇ〜あたしじゃ渡せないから』
自分でこういう事を言うと、辛くてたまらなかった。
自分の成長が、全然なかったと思うと。
『本文:そんなこというなよ。でも、お前のチョコ、食ってみたいなぁ〜』
これは『期待』の言葉なんだろうか。
味なんて自信ないけど・・・食べてもらいたい。
『本文:うん!じゃあ待っててね!オヤスミ!』
これだけを送ると、あたしは寝た。
眠れなかった。“あいつ”の言葉があたまにやきついていたから。
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「あれ?啓、誰とメールしてたの?」
塾帰りの俺の隣にいた海が、不思議そうに俺を見た。
「このごろ誰ともメールしなかったじゃん。ショックでさぁ〜。立ち直れたの?」
海はまだ俺が神埼にいろいろ言ったことを知らない。
「神崎とだよ」
海の表情は嬉しそうで、苦笑いだった。
「おぉ・・・何とかなぐさめられたのかよ。良かったな」
「あいつの『男嫌い』も少しましになったしな」
海の顔は輝きだして、自転車だったのに足元からジャンプしそうな声で言った。
「まじでぇ!?やったぁ!いつも通りの陸ちゃんだぁ!」
「神崎のことまだ諦めてないだろ?」
「もっちろん、てか今マジでやる気出てきた」
「・・・神埼もそうだったらいいのにな・・・」
「ん?何か言った?」
「いや・・・、何も」
神埼も俺をまた振り向かせてくれたらいいのに、そしたら俺、気持ちが変わるかもしれない。
夏海のことも、忘れるかもしれない。
何で気になるんだ?
何で神埼に、振り向かせてほしいんだ??・・・俺。