第19話*啓の言葉
しばらく学級委員は無言の日々が続いた。
川崎とは一言も口をきかなかった。
ただでさえ話すのも無理なのに、このままだとあたし壊れちゃうよ・・・。
あなたの声がききたいの。あなたからのからかいや優しさの言葉がほしいの・・・。
もう全部・・・無理なのかな・・・。
1月31日
さよならの挨拶も終わり、帰る準備をしたあたし。
このまますぐ帰れるかと思った・・・が、
「このプリントの整理頼んだ」
先生からの久しぶりの雑用。
学級委員後悔・・・。
って、学級委員ってことは・・・。
あいつがいた。
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バチンッ、バチンッ
妙に教室響くこの音。
あたしたちには耳元の大工事に聞こえた。
何も会話を交わさずに、ホッチキスでプリントをとめる。
こんなに近くにいるのに・・・どうして体は動かないんだろう。
どうしてあたし、『男嫌い』なんだろう・・・。
どうして・・・どうして・・・・・・・??
バンッ!!
ホッチキスの妙な音より響いたこの音にはあたしは声をもらしそうになった。
「何でなんだよ!!」
川崎の突然の大声の独り言。
「何で俺・・・こんなにあせってんだよ・・・」
川崎の独り言はあたしは理解できなかった。
誰に向かって言っているのか、何に後悔を感じているのかさっぱり分からなかった。
「いつもの俺なら・・・告られたら付き合うか断って・・・断ったら『また告られたぁ〜』とか・・・自慢話だったのに・・・さっぱりできたのに・・・何でこんなもやもやなんだよ!」
あたしはこの言葉に切なさを感じた。
意味は分からなかったけど、心に染み付いてきた。
「俺がお前の『男嫌い』ひどくしたのなんて俺にはどうでもいいことなのに・・・」
川崎がとうとう机に顔をしずめた。
「何で俺の心の中に、お前がいるんだよ・・・」
川崎の瞳は、あたしを捕らえていた。
つぶらな瞳には、あたしが映っていた。
悲しそうな目。つらそうな目。
何でそんなに後悔してるの??
『男嫌い』の症状は出ず、無意識にあたしは川崎の瞳を見つめていた。
「俺、お前のこと・・・好きではない。でも・・・だからって嫌いってわけじゃねぇんだよ!」
川崎の辛そうに言い切った言葉。
あたしの心にやきついた。
『好き』ではない。でも、『嫌い』じゃない。
気持ちはどっちなの・・・??聞きたいけど口は動かない。
「最近のお前見てたら、悲しそうで、辛そうで・・・見てられねぇんだよ・・・。気楽に話しかけたいのに『男嫌い』がひどくなったっていったら・・・これ以上お前に関わったら・・・お前が壊れそうで・・・」
何て言うか・・・体の底で、もう1人の“あたし”が、川崎を見つめていた。
体に抵抗し、気持ちだけ豊かな、心の“あたし”が。
「俺お前のことなんて見捨てねぇよ・・・。見捨て切れねぇんだよ・・・。お前のこと見てたら」
突然、どこからか声が聞こえてきた。
「嫌いになられるのが・・・怖いよ・・・」
それは、あたしの『声』だった。
体の抵抗に勝ち、ようやく湧き出てきた、あたしの“想い”が。
川崎はあたしの声に驚いていた。
やがて、ふっ、と笑みをこぼし、安心したかのような声であたしに言った。
「嫌いになんてなんねぇから・・・な?ホントだよ。お前はそういう奴じゃねぇから」
お前・・・は?他に・・・誰かいたの・・・??
「大丈夫って・・・。だから、この先も俺のこと見ててくれたら・・・嬉しいな・・・」
川崎はあえて声に力を入れず、見つめていた側の、顔で、笑って感情を表現した。
川崎・・・あたしのこと『嫌い』じゃないんだよね・・・。
まだ希望はあるんだよね・・・。
まだ、気持ちは伝えられるんだよね・・・。
あたし、頑張れるかも・・・。
啓は今の気持ちを陸に伝え、陸も心の調子を取り戻した。
だから陸は、次の挑戦に・・・出る。