第2話*2度目の恥
「・・・おはようございます」
自分でも声がどよんでいたのが分かる。
「わっ!?陸、どうしたの!?顔死んでるよ」
「ぅぇ――――ん!!真奈美ぃ!!」
あたしは泣きついた。
「・・・・・・で、そのクラスが嫌なわけね」
カバンを振り回しながら真奈美は歩く。
「男の子に睨まれたり一人で漫才したり・・・初日から最悪」
「そりゃー男嫌いの陸が男子に睨まれたんじゃねぇ・・・」
「あ、それよりさ!」
ピョンッと真奈美はあたしの目の前に飛んできた。
「あたし実は学級委員することになりましたぁ!!」
『イエーイ』の擬声語が似合うそのピースのポーズはかっこいい・・・。
「学級委員って・・・」
あたしがつぶやくと真奈美は満面な笑顔を見せた。
「学級委員ってクラスで1番輝くよぉ!クラスまとめたり大掛かりな仕事したりとか」
「へぇ〜・・・」
あたしは少々興味なし。
「・・・陸、学級委員やってみれば?」
真奈美のひと言にあたしは後ずさった。
「・・・何よ?」
「ががががが、学級委員とか無理にきまってんじゃん!」
「なーに言ってんの!そんなんじゃ男嫌い治んないよー」
真奈美は余裕であたしのがたがた揺れる肩に手を回す。
「男の子にこーんなことされたらぁ??」
真奈美のあまーい言葉に背筋に冷たいものがはしった。
「ああああ・・・あたし!先行ってるから!!」
あたしは耐え切れずに学校までダッシュで走っていった。
「はぁ・・はぁ・・・ぅう・・・」
学校の門についた時はあたしの息はもう切れていた。
今日から普段通りの授業・・・あんまスタミナ使いたくなかったんだけど・・・。
「・・・ぅ、今日委員会何にするか決める授業あるじゃん・・・学級委員も・・・」
あたしは1人言をぶつぶつ言いながらくつ箱へ向かった。
あたしはくつ箱の棚から真新しいシューズを出した。
あたしがその場でボーっとしていたら、隣でボスンと音がした。
振り返ってみると、シューズを手荒く床に置いた、“男子”だった。
「!!」
あたしは少し後ずさった、その“男子”とは、昨日あたしを睨んだ“男子”だった。
そいつは無言でシューズのかかとを踏みながら、教室へと向かっていった。
「・・・・・・」
あたしはそれを何を言わずに口をポカンと開けて見ていた。
そう言えば・・・あたしあいつの名前知らないや。
まぁいいか・・・。
教室に入るのは重かった。昨日のことも・・・
あたしは教室をドアを重く開けた。
やけに教室静か・・・
あたしはふとうつむいていた顔を上げた。
「・・・・・・」
3秒間状況が分からなかった。
でも4秒目からはあたしの目は輝いた。
「やったぁ!!教室だれもいなぁーい!じゃぁいいや!おっはよー!!」
あたしのテンションは1人で盛り上がった。
が・・・・・。
「・・・何言ってんの?」
「え・・・、!!!!!」
あたしのすぐ隣にあった机には・・・“あいつ”がいた。
じゃあ今の訳分かんないテンションこいつに見られてたの??恥っっ!!
「あんたまさか俺いないと思って1人で盛り上がってたの?」
口の端をつり上げて苦笑い。
コレって笑われてんの??あたし昨日この人に睨まれたんだよね・・・??
「ああああああ・・・あたし・・・えと・・・」
あたしは勢いあまってドアを勢い良く閉めてしまった。
ドンッ!! ガラッ・・・
「っへ?」
あたしの目の前にはモップの大群が迫ってきた。
「キャ―――!!」
忘れてたよ・・・モップ君。
あたしはモップに取り囲まれてしまった。てか臭いよ・・・。
うんざりとしているあたしとは逆に“あいつ”は大笑いであたしを見た。
こんなに笑う人だったんだ・・・。
あたしは昨日の睨まれた顔と比較してみた。
「くっ・・・お前・・・うける・・・」
腹を抑えて笑いをこらえながらコメントをひと言。
恥ずかしさは増してきた。顔が熱くなってきた。
でもしばらくして“あいつ”の笑いはおさまり何も言わずにあたしの周りのモップを1本ずつ拾って掃除用具の中に戻した。
「あ・・・ありがと」
あたしは小さな声でお礼を言った。
「おっはよ――――!!」
あたしはひざをついたまま教室のドアを見上げた。
元気なあいさつをしてきたのは小さな男の子。
たしか小学校で同じクラスだった・・・北島 海だったけ・・・?
海は『カイ』って読むんだけどみんな『ウミ』って呼んでたなぁ・・・。
「おぉ海、おはよ」
誰かの次の言葉が出る前に、あたしは立ち上がって自分の席に向かった。
「あっれぇ〜??教室2人だけだったの?あっやし〜」
あたしは思わず北島のほうを振り返った。
そこには怪しい笑顔であたしを見ていた北島がいた。
「別に・・・2人きりだからって俺はボ―――ってしてただけだし」
「啓のことだからさぁ、ハハッ」
あたしは『けい』を漢字に変換できなかった。
『啓』じゃなくて『刑』かと思った・・・(笑)
カバンから教科書・ノートなどを取り出すと机の中に押し込んだ。
「陸・・・だっけ??」
「え?」
隣の席でニコニコ笑う北島はさっきの笑顔と違った。
「たしか6年の時同じクラスだったよね?1年になって何組だったの?」
次々とくる質問攻めはあたしは大の苦手だった。しかも男子と喋るなんて・・・。
あたしの目は回っていた・・・。
「海、やめとけって。そいつ困ってんじゃん」
その“刑”・・・じゃなかった。“啓”は止めた。
「あれ?今日お前らしくないじゃん。女の子と喋んないの?」
その言葉は“啓”はかわした。
「まっ、いっか・・・。そういやお前委員会何にすんの?一緒なろうよぉ」
北島は“啓”の肩をゆする。
「俺は・・・1番楽いやつかなぁ・・・」
ひじをつき、あくびをする。
1番楽なやつ??じゃあ学級委員には無縁だね!・・・じゃなくて!!あたし何で学級委員のこと考えてんのよ!あたしだって無縁なのに・・・でも・・・。
「やってみようかな・・・」
「は?」
あたしの突然の独り言に北島と“啓”はびびったらしい。疑問の目であたしを見ている。
それにあたしは気づいたけど何も言えないので顔をそらした。
そうこうしているうちにぞろぞろクラスの人間が教室に入ってきて授業が始まった。
1時間目の数学は気が重かった。理数で理科は得意なんだけど数学は苦手・・・。
最初の真新しいノートは、黒板の文字だけしかうつさなかった。
2時間目は、委員会決め。担任の春野 由香里という女の担任が黒板の前に立った。
『学級委員』『体育委員』『学習委員』・・・とそれぞれの委員会が書かれる。
「ではまずは学級委員から決めましょうね・・・立候補から聞こうかしら?」
教室で手が上がる気配はない。こういう時1人で上げるのはなおさら勇気がいる。
あたしは拳を机の下で振り上げ右手を大きく上げた。
「あああ、あたし、学級委員やりたいです!!」
前が見えないほど目を固くつぶっていた。ゆっくりと目を開くとクラスの視線は半分あたしにあり、もう半分は・・・“あいつ”にあった。
「俺、学級委員します」
右手をだるそうに上げながら答えた。
「え・・・・」
あたしは混乱した。