第18話*夏海の本性
夏海
一言ではかわいい女の子。
おとなしすぎて話しかけずらかった。
男子とはもちろん・・・でも、女子ともあまり会話を交わさなかった。
夏海と出会ったのは小学校5年生。
きれいなピンクのランドセルで転入してきた時だった。
そのときから、会話は全くといってほどせず、中学2年生を迎えた。
ペンケースがなくなったときは、やさしく声をかけてくれた。
貸すシャープペンがなかったときは、ガッカリした顔がかわいかったよ。
それがもとで、いろいろ話せるようになり、親友にまでのぼりつめた。
でも・・・もう雰囲気には耐え切れなくなるかもしれない。
「夏海が・・・川崎の元カノ?」
あたしは拍子ぬけた。すっごい意外だったから。
1年生のときは夏海と川崎は別のクラスだった。
しかも1組と5組。夏海はそのときはまだ人とは会話はしなかったから・・・。
何が原因で??
「夏海さ、小学校のころバスケやってたじゃん?啓も小学校は違ったけどミニバスケット部に入ってて・・・顔合わせるときとかなかったけど・・・試合とかあったとき夏海、メアドとかいろいろな男子と交換してて・・・もちろん、川崎ともメールしてたらしいの」
そのころからなのかな・・・?川崎が夏海のこと好きなの。
「中1の入学式に啓が告白して、OKだったとさ・・・」
まるでハッピーエンドのような言い方。全然違うけど。
「それが・・・夏海の本性なの?」
「夏海は逆の『男たらし』なんだよ。啓は本気で、夏海は遊びだったんだ・・・」
「夏海は・・・なんであんなおとなしいの??」
「メールとのギャップを見せるためなんだよ。そういうのいいって言う男子いるでしょ?」
確かに・・・夏海は大の『たらし』だ。
「啓はね、もう本気の恋なんてどうでもいいって思うよ。『たらし』として、女子の周りで生きていこうって・・・」
本気の恋なんてどうでもいい??
じゃあ“あいつ”はもう、1人の女子のものになることはないの・・・?
夏海の・・・夏海のせいで・・・
あたしは屋上から出た。長い階段を音を立てながらあたしは下りる。
そして、教室に1人でいた夏海。
「・・・・・・」
「わっ、びっくりした。陸、どうしたの?」
夏海は上機嫌の笑顔で問いかけてきた。
「あたしが聞きたいくらいだよ・・・」
あたしは聞こえない声でつぶやいた。
「てかさぁ〜陸」
「へ?」
夏海の笑顔の意味が変わった。
笑顔ではなく、人をばかにするような、笑い。
「陸ってば・・・啓に告ったんだってね」
あたしの肩はビクッと震えた。
口元は笑い、眉は苦笑いの夏海。
「知ってるでしょ?あたしと啓が付き合ってたって。まぁ・・・あたしは遊びだったんだけどね。全然知らなかったけど、あっちから告ってきてさ、顔が良かったからOKしてあげたんだけど。何かやっぱ疲れるねぇ〜。あっちはまだあたしのコト未練があるみたいだけど」
夏海の嫌味たらたらの言い方。あたしは怒りを抑えた。
「何それ・・・・・・」
ぐっと拳でこらえた。
「何って、断ったらなんかもったいないじゃない?まぁ、ボランティアってやつ??」
そして、あたしを嘲笑うかのように大声で笑った。
中2のはじめの夏海と比べたら大違いだ。
天使のように、素直で優しかった子が、今は黒々とした心の悪魔。
「何よそれ・・・・」
「別にそんなのあたしの勝手でしょ〜??啓って意外ともててたんだね〜。他学年の女子にも告られてたしね〜。まぁ『たらし』だからね。アレだけのルックスもあるし。でも断ったの損だなぁ〜。あたしから告ってみよっかなぁ〜。どうせOKだし。ま、また遊びのつもりでね」
夏海の無神経な言い方に、あたしはついに切れた。
「いい加減にして!!」
夏海には少しこれがきいた。目を丸くして立ちすくむ。
「夏海は・・・夏海は無神経すぎる!!」
言葉と一緒に、汗が流れてきた。
「本気で人を好きになるって、こんなに愛くるしいことなの!切ないことなの!だからっ・・・遊びでそんな簡単に人の気持ちを受け取っちゃいけないの!」
汗と思ったら、今度は目から雫がたれてきた。
“それ”の正体を知る前に、あたしは言葉を続けた。
「あたしは遊びじゃないから・・・本気で“あいつ”に恋してる。気持ちだけなら誰にも負けないから!!」
そしてあたしは来た方向に振り返り、走った。
納得のいかない顔してる、夏海を背中に残して。
夏海は啓の逆、『男たらし』だった。
天使のような女の子が、こんな形で悪魔に変わってしまった。
啓のことは本気にしていなかったが、また啓を狙い始める・・・?
陸のライバルに?!