序幕
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「ケレケレケレ」
「こ、こっちに来るな!!」
雑居ビルが立ち並ぶ細い路地。騒々しい繁華街の二本程奥まった道は、思いの外生活音が届かない。そんな小路を、叫び声に近い甲高い言葉を発しながら走る男性の背後を追う人影。影だけみれば人ではあるが、実際に目撃すれば一目で人成らざる者と判る。コンクリートをベタ塗りしたような皮膚は一部がひび割れ、緑色の眼孔はカメレオンのように非対称に動き不気味さ。そして悍ましく虫ずの走る笑い声を上げる。
「ケレケレケレ」
拍子木を鳴らしたような声はビルの路地を超え薄く雲が覆う夜空へと届かんばかりに響き渡る。
「誰か!! 聖令隊を呼んでくれ!!」
息を切らしながら、声をあげるも彼の視界にはそれを伝える人はいない。そんな彼の目に裏口と覚しき出入り口が目に飛び込み、急いで数段の段差を登るとドアノブをがちゃがちゃと回し、力の限りドアを叩く。
「開けてくれ!! 頼む!!」
だが反応はない。その直後、肩を捕まれたと同時に、ドア向かいの壁に叩き落とされ一瞬目の前が暗くなった瞬間首を捕まれたかと思うと壁に押しつけられる。
「ひぃっ」
暗闇に光る緑色の二つ眼が自分の目の前に迫る。
「星の加護を私に!! いや太陽の導きでも構わない!! どうか、どうかお助けを!!」
そう叫んだ瞬間、彼の胸元に青白い腕が突き刺さる。
「ぎゃああああ」
断末魔のような声が路地に響き渡り、暫しその余韻が残る最中だった。先ほど男性が手をかけていたドアノブが周り、渋い音をたてながら扉が開く。すると暖色の明かりが暗がり小道に一筋の光の道を照らし出すと同時にアップテンポの曲と共に女性達の賑やかな声が漏れる。
「そのぐらいしかあげられないけど、また無くなったらおいでね灰人さん」
「ちょっとミトさん。私も挨拶させて頂戴な。また遊びいらっしゃい」
「うっす」
軽く会釈をしながら、ドア枠ギリギリで身を屈め路地へと視線を落とす。ドアから差し込む光が一直線に向かい側の壁へと差し込み彼の眼にある惨状が飛び込む。明らかに息のない人が壁に押しつけられた状態で項垂れ座り込み、その前には青白い腔が首を傾けながら立ち片手には夥しい流血と共に赤く微かに動く肉片を握りしめていた。
彼はそれを表情かえることなく一瞥すると、深いため息をつく。
「俺運ねーなやっぱり」
そう呟くと、石膏のような腔からだがその声に反応し彼の方に首を90度曲げ緑の眼球を向けた。
「ミトさん。例のブラックリストの客居ますよ」
「えっ嘘!! 困るわ!!」
「俺出たら、暫くはここ開けない方が良いっすよ」
「そうね。ありがとう灰人さん」
最後まで彼女の声を聞きとり、ドアをゆっくりと閉めたと同時に施錠の音が耳に届く。すると、それを待っていたかのように大量の返り血を浴びた緑眼の獣がこちらに飛びかかり、目の前の胸を抉ろうと手をのばす。が、それより早く、彼が自分の腰に添えていたホルスターから一丁の銀色の拳銃を取り出しトリガーを引く。
パンッ
乾いた音が響き渡り、白い固まりがドサリと地面に落ちると、見る見るうちに腔は白い粉末と変わり、白い粉の山と化す。変わり果てた者を横目に彼はゆっくりと数段の階段を下りると、振り向くことなくその場を歩き去った。
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