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僕が諦めた初恋の彼女は、偽ヒーローに身も心も捧げた後、全てを失ってから本当のヒーローが僕だったと知ったらしい  作者: ledled


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7/7

サイドストーリー:陽だまりが照らす、君の隣

あたし、星乃陽彩ほしのひいろは、いわゆる「陽キャ」ってやつに分類される。明るい髪色、短いスカート、派手なメイク。周りにはいつも友達がいて、毎日笑って、恋バナして、カラオケ行って。傍から見れば、悩みなんて何もない、お気楽なギャルに見えるんだろうな、って思う。

でも、そんなあたしにも、誰にも言えない秘密の片想いがあった。

その相手は、水無月湊みなづきみなと

クラスの隅っこでいつも静かに本を読んでる、地味で、目立たない男の子。あたしたち陽キャグループとは真逆の世界に住んでる、いわゆる「陰キャ」ってやつだ。

普通なら、接点なんてあるはずもなかった。あたしの友達が「湊くんってさ、なんか暗くない?」なんて言うのを、「そーかなー?」なんて適当に相槌を打って流す。そんな関係だったはずなのに。


あたしが湊のことを意識し始めたのは、高校二年の春、クラス替えがあったばかりの頃だった。

新しいクラスの最初のホームルームで、クラス委員や係を決める時間があった。誰もがやりたがらない、面倒な美化委員や飼育委員。先生が「誰かいないかー?」って困った顔をしてるのに、教室はシーンと静まり返ってる。陽キャも陰キャも、みんな目を逸らして、自分じゃないって顔をしてる。

そんな気まずい沈黙を破ったのが、湊だった。


「……じゃあ、俺、やります」


ぽつりと、でもはっきりとした声で、彼はそう言った。そして、誰も手を挙げなかった美化委員と飼育委員、両方に自分の名前を書いたのだ。教室中が「え、マジで?」みたいな雰囲気になって、何人かの男子が「おー、水無月、神かよ!」なんて囃し立てた。でも、湊は特に得意気な顔をするでもなく、ただ静かに自分の席に戻っていった。

その時、あたしは思ったんだ。この人、すごいな、って。

誰もが嫌がることを、文句一つ言わずに引き受ける。目立ちたいからじゃない。誰かに褒められたいからでもない。ただ、誰もやらないなら自分がやる、っていう、その静かな責任感。あたしには、それがすごくカッコよく見えた。

その日から、あたしは無意識に湊のことを目で追うようになっていた。

彼は、本当にいつもそうだった。クラスで何か面倒なことが起きると、いつの間にか彼が黙々と片付けている。文化祭の準備で、地味で時間のかかる作業が残っていると、気づけば彼が一人でそれをこなしている。誰に感謝されるわけでもないのに。誰にも気づかれないような場所で、彼はいつも、静かに、誰かのために動いていた。

あたしは、そういう彼の優しさを、一つ一つ見つけては、宝物みたいに心の中にしまい込んでいった。

友達との恋バナで「陽彩はどんな人がタイプなの?」って聞かれても、「うーん、やっぱイケメンでしょ!」なんて笑ってごまかしたけど、本当は、あたしが好きなのは、派手で目立つイケメンなんかじゃなかった。真面目で、優しくて、ちょっと不器用な人が好き。そう、まるで湊みたいな人が。


でも、この恋は絶対に叶わないって、あたしは最初からわかってた。

だって、湊の視線の先には、いつも一人の女の子がいたから。

白鷺院麗華さん。

A組の、学年一の美少女。成績優秀で、完璧なお嬢様。あたしたちとは住む世界が違いすぎる、まさに高嶺の花。湊と同じ図書委員で、図書室の話をする時の湊は、いつもすごく嬉しそうだった。その顔を見れば、誰だってわかる。ああ、この人は、白鷺院さんのことが好きなんだな、って。

あたしなんかが入り込む隙間は、どこにもなかった。だから、この気持ちは誰にも言わずに、心の奥底にしまっておこうって決めた。湊が幸せなら、それでいい。遠くから見てるだけで、あたしは満足だって、自分に言い聞かせた。


そんなある日、学校中に衝撃的なニュースが駆け巡った。

あの白鷺院さんが、あたしたちのクラスの火野隼人と付き合い始めた、っていう噂。隼人はサッカー部のエースでイケメンだけど、中身は超がつくほどのチャラ男。あたしの友達も何人か痛い目にあってる。なんで白鷺院さんが、あんな男と?

でも、それよりもあたしが気になったのは、湊のことだった。噂を聞いた日、彼は一日中、死んだ魚みたいな目をして、机に突っ伏していた。わかりやすすぎなんだよ、もう。見てるこっちが、胸が痛くなるくらい。

あたしは、いてもたってもいられなくて、思わず彼に声をかけていた。


「……水無月くん、大丈夫?」


それが、あたしたちがちゃんと話した、最初の会話だったかもしれない。


それから、あたしは決めたんだ。もう、見てるだけなのはやめようって。

白鷺院さんが隼人を選んだのなら、あたしにもチャンスがあるかもしれない。こんなこと考えるなんて、性格悪いかなって思ったけど、湊が落ち込んでるのを、ただ見てることしかできない方が、よっぽど嫌だった。

あたしは、自分にできる精一杯のアプローチを始めた。

朝、教室で「おはよ!」ってわざと明るく声をかけたり、お昼ご飯を一人で食べてる彼の前に、無理やり座ったり。「ひ・い・ろ!陽彩って呼んで!」なんて言って、強引に距離を縮めようとした。最初はすごく戸惑ってた湊も、少しずつ、あたしに心を開いてくれるようになった。

一緒にクレープを食べに行ったり、映画を見に行ったり。他愛もない話をして、一緒に笑う時間が増えるたびに、あたしはどんどん彼に惹かれていった。そして同時に、彼の心の奥にある深い傷にも気づいていた。

彼は、白鷺院さんのことを「諦めた」と言った。彼女には、ずっと想い続けてる「ヒーロー」がいるから、って。それが隼人なんだって、彼は信じ込んでいた。

あたしは、その話を聞いて、腸が煮えくり返るような思いだった。

だって、あたしは知ってたから。隼人が、裏で白鷺院さんのことをなんて言ってたか。隼人が、ただの遊びで、ヒーローごっこをして彼女を騙してるってことを。あたしは隼人と同じグループにいたから、そういう汚い話を、嫌でも耳にしていたのだ。


許せなかった。湊の、こんなにも純粋で、まっすぐな気持ちが、あんな奴らのくだらない遊びのせいで、踏みにじられてしまうことが。

そして、白鷺院さんにも腹が立った。あんたは、すぐ隣にある本物の宝物には気づきもしないで、偽物のガラス玉に夢中になってるんだよって。

だから、あたしは言ってしまったんだ。図書室から出てきた白鷺院さんを呼び止めて。


「あんた、水無月くんの気持ち、何も知らないんだね」

「水無月くんが、どれだけあんたのことを好きだったか、知らないでしょ。自分の気持ちを全部殺して、あんたの幸せを願って、身を引いたんだよ、あの人は!」


後先なんて考えてなかった。ただ、湊の気持ちを、このまま誰にも知られずに終わらせたくなかった。彼の優しさが、こんな形で報われないなんて、絶対にあっちゃいけないって思った。

今思えば、あれはあたしのただのエゴだったのかもしれない。でも、後悔はしていない。


その後、白鷺院さんは学校に来なくなった。そして、火野家が破滅した。全てが、白鷺院さんの復讐だってことは、誰の目にも明らかだった。正直、ざまぁみろって思った。隼人は、ああなって当然の男だったから。

でも、湊は、そんな状況でも白鷺院さんのことを心配していた。彼の優しさは、時々、見てる方が辛くなるくらい、深くて、大きい。

あたしは、そんな彼の隣で、彼が少しでも笑えるように、必死だった。彼が抱える重荷を、少しでも軽くしてあげたかった。


そして、あの放課後の屋上。

あたしは、勇気を振り絞って、湊に告白した。ずっと心に秘めていた想いを、全部ぶつけた。


「あたし、湊のことが好き」


断られるかもしれないって、すごく怖かった。彼の心の中には、まだ白鷺院さんがいるんじゃないかって。でも、あたしの気持ちは、もう抑えきれなかった。


「あたしじゃ、ダメかな?」


震える声でそう聞くと、彼は少し驚いた顔をして、そして、すごく優しい顔で、こう言ってくれたんだ。


「……僕で、いいの?」


その瞬間、あたしの世界は、キラキラした光でいっぱいになった。彼が、あたしを選んでくれた。彼の手を握って、その胸に抱きしめられた時、あたしは、世界で一番の幸せ者だと思った。


湊と付き合い始めてから、あたしの毎日は、本当に夢みたいに楽しかった。一緒に帰ったり、休みの日にデートしたり。彼は、あたしが思っていた以上に、面白くて、優しくて、そして時々、男らしいところもあった。あたしは、毎日、新しい彼の魅力を見つけては、どんどん好きになっていった。

あたしは、彼に全てを話した。白鷺院さんに、湊の気持ちを伝えてしまったことを。勝手なことをしてごめんなさい、って謝ったら、彼は困ったように笑って、「ありがとう」って言ってくれた。あたしのしたことを、受け入れてくれた。


でも、心のどこかで、ずっと気になっていることがあった。

それは、白鷺院さんのこと。

彼女は、学校では普通に振る舞っているように見えたけど、時々、すごく遠い目をして、一人でいることがあった。そして、その視線の先には、いつも、あたしたちがいた。その目に浮かんでいるのは、嫉妬や憎しみじゃなくて、もっと深い、どうしようもない後悔の色だった。

あたしのしたことは、本当に正しかったんだろうか。

もし、あたしが何も言わなければ、湊の恋は静かに終わって、白鷺院さんも、もしかしたら違う未来があったのかもしれない。あたしは、自分の恋を叶えるために、誰かの人生を、大きく変えてしまったんじゃないだろうか。

そんな罪悪感が、ふとした瞬間に、胸をチクリと刺す。


でも、あたしは後悔しない。

だって、あたしは湊の隣にいるって決めたから。彼を幸せにするって決めたから。

あたしは、彼が見つけてくれた、陽だまりみたいな場所。彼が辛い時、悲しい時、いつでも帰ってこられる、温かい場所でありたい。過去に何があったとしても、あたしが彼の未来を、明るい光で照らしてみせる。

それが、彼の隣に立つことを許された、あたしの覚悟だから。


今日も、隣を歩く彼の横顔を盗み見る。少し癖のある髪、真面目そうな眼鏡の奥の優しい瞳。あたしが、世界で一番大好きな人。


「ねえ、湊」

「ん?どうしたの、陽彩」

「ううん、なんでもない!ただ、好きだなって思っただけ!」


あたしがそう言って笑うと、彼は「なんだよ、それ」って照れながらも、嬉しそうに、あたしの手をぎゅっと握り返してくれた。

うん、やっぱり、あたしは世界一の幸せ者だ。

この幸せを、絶対に手放さない。誰に何を言われたって、どんな罪悪感を背負ったって、あたしは、彼の隣で笑い続けるんだ。

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