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最終処分場の少年剣闘士  作者: 真好


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15/22

15.タイトルマッチ(フェーズ2)(2)

15.タイトルマッチ(フェーズ2)(2)


 GOMI子のリーチは圧倒的だ。巨大な体躯に加え、あの長大な哺乳棍棒がある。遠距離から一方的に粉砕される未来しか見えない。

 懐に飛び込むしかないが、両手が塞がっていては戦えない。

 膤をどこか安全な場所に隠すべきか?

 いや、と洌は考え直した。

 この戦場に安全地帯などない。それに、彼女を離したくない。

 ふと、腕の中の膤を見る。

 GOMI子の胃袋から吐き出された彼女の体は、未消化の溶解液や半溶解した他のロボットの成分により、透明なシロップのような粘性のあるゲル状物質で覆われていた。

 ところどころ皮膚の塗装が剥げ、銀白色の合金が剥き出しになっているその痛々しい姿に、洌は胸を痛めつつも、ある物理的特性を利用することを思いつく。

「膤、背中へ」

 洌は彼女をお姫様抱っこから、背中へとおんぶの姿勢に移行させた。

 そして、自身の背面装甲の温度を急激に下げた。タイタンの極低温環境を逆手に取り、彼女の体を覆う粘液を瞬間凍結フリーズ・ロックさせたのだ。

 接着剤代わりのゲルがカチリと固まり、膤の体は洌の背中に完全に固定された。

 これで、両手が自由になる。

 見た目はただ女の子をおんぶしているだけだが、その結合強度は溶接に匹敵する。

 意識を取り戻し始めた膤も、状況を察したのか、洌の重心移動を妨げないよう、絶妙なバランス制御アクティブ・バランサーを行ってくれた。

 『装備:ユキ

 効果:攻撃力(勇気)大幅上昇、防御力(回避難易度)低下。

 いわば「諸刃の剣」ならぬ「諸刃の少女」。

 背中という死角に最大の弱点を晒すことになるが、同時にそれは、洌のコアに無限の勇気を供給する最強のブースターでもあった。

「重くない。むしろ、速い」

 質量は増えたはずなのに、体は羽根のように軽い。

 これがプラシーボ効果だとしても構わない。背中の温もり(実際は極低温だが)が、恐怖を塗りつぶしていく。

 逃げ回って死ぬくらいなら、愛を背負って突っ込む。

 それが、洌という個体の最適解。

「うおおおおおおおおっ!」

 洌は咆哮と共に大地を蹴った。

 真正面からの猪突猛進。

 GOMI子が驚愕の表情で再び棍棒を薙ぎ払うが、今の洌には止まって見える。

 愛という名の演算加速装置アクセラレーターが弾き出す回避ルートをなぞり、洌は暴風のような一撃を紙一重でかわし、懐へと潜り込んだ。

 怪物の足元、至近距離ゼロ・レンジへ到達する。

 洌は跳躍し、狙いを定めた。

 ターゲットは、先ほど引きちぎられたへその緒――腹部の傷口。

 だが、そこは既に変貌していた。驚異的な自己修復能力により、傷口は分厚い装甲板で塞がれ、あまつさえ溶接ビードが幾重にも盛られた、全身で最も堅牢な「ハッチ」へと強化されている。

 あそこをぶち抜くのは不可能だ。

 ならば、次なる弱点はどこか。

 洌は空中で0.00000074秒の高速検索ブラウジングを行った。

 過去のGOMI子の戦闘ログと、有機生命体の新生児データを照合する。

 ヒットした。

 赤ん坊の頭蓋骨は未完成であり、特に頭頂部には「大泉門だいせんもん」と呼ばれる骨の隙間――柔らかい急所が存在する。

 ここだ。ここしかない。

 だが、今のジャンプ力ではへその高さが限界だ。脳天までは遥かに届かない。

 そこへ、GOMI子の迎撃が来た。

 丸太のような脚が、空中の洌を蹴り飛ばそうと迫る。

 空中にいる洌に回避行動スラスターの術はない。直撃コースだ。

 終わった、と洌が思った瞬間――奇妙なことが起きた。

 猛烈な勢いで迫っていたGOMI子の足が、インパクトの瞬間にフッと減速したのだ。

 破壊的な蹴りではない。それは、サッカー選手がボールをコントロールするような、絶妙に力みを抜いたタッチだった。

 ポンッ。

 GOMI子の足の甲が優しく洌を捉え、リフティングのように上方へと打ち上げる。

 洌の体がふわりと浮き上がり、絶好の打撃ポイント――ストライクゾーンのド真ん中へとセットされる。

 GOMI子は、ニヤリと笑った。

 両手で「哺乳棍棒」のグリップを握りしめ、腰を沈める。

 その構えは、よちよち歩きの赤ん坊のそれではない。数々の名勝負を生んできた伝説のスラッガー、その全盛期を彷彿とさせる、あまりにも完璧で美しいバッティング・フォームだった。

 そして、スイング。

 カキィィィィィィィン!!

 澄み渡った、この世の誰が聞いても胸のすくような、完璧な打撃音が鳴り響く。

 哺乳棍棒のスイートスポットが、膤と合体した洌を捉えたのだ。

 洌はライトスタンド方向へ、美しい放物線を描いて弾き飛ばされた。

 その芸術的な弾道を見送りながら、岩頭の実況が叫ぶ。

「おおっと!入ったか!?入ったー!GOMI子選手、これは文句なし!場外への見事な特大ホーーームランッ!!」

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