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#4 恐怖のおうちデート

***

 環姫に呼び出された僕は町一番の大屋敷、月城邸に来た。父が大学教授という環姫の家は和洋折衷スタイルの重厚な洋館といった趣で、隣には彩園寺すみれの色とりどりの花で彩られたきらびやかな和風の邸宅が建っている。だが、相当仲が悪いらしく両家の間には国境レベルの高い壁が築かれていた。

***

 環姫の部屋は一階の豪奢な洋室だった。私服姿の環姫は、白地に黒いリボンのついた上品なブラウスにハイウエストスカートのお嬢様コーディネイトで、あまりの眩しさに眩暈がした。真珠の髪飾りで巻き髪をハーフアップにまとめていて、それがよく似合う。中身は悪魔なのに見た目は天使だから、クラスメート達がころっと騙されるのも頷ける。

 しかし、この家の放つ異様な雰囲気はなんだろうか。まるで大勢の何かから見られているような視線を感じる。

 ぞっとしていた所に、イヅナのホイップとマカロンがキィ、といきなり肩に乗ってきて僕は気絶しかけた。

「ぎゃあああ悪魔の使い! お願いだから命だけは奪わないで!」

「ホイップたちも御影くんが気に入ったのね。どこが怖いのよ。可愛いでしょ?」

 生きた心地もせず、ただ頷くしかない僕。環姫に人差し指で白いふわふわの顎を撫でられ、気持ちよさそうに目を閉じているホイップとマカロン。見ている分にはモフモフで可愛いのだが、目の前で消えた藤堂の姿とネットで見たあの恐ろしい情報が脳裏に焼き付いて離れない。

「お茶淹れてくるからちょっと待っててね」

 ホイップとマカロンを連れた環姫が席を外した。机の下に、大きな木箱が見えた。びっしりとお札が貼られ、明らかに異様な気配がする。

「まさかこの中に佑樹たちの死体が……」

恐ろしいが、チャンスは今しかない。

心臓が早鐘を打つ中震える手で箱を開けると、中に入っていた竹筒から無数のイヅナが怒涛の如く飛び出てきて、僕に襲いかかった。

「うわあああっ!」

「イヅナよ鎮まれ。チリチリ、ケンノウ、ケンノウ、ズサカ」

 ケーキと紅茶を運んできた環姫が手を組み合わせて印を結び、呪文を唱えて僕の髪を撫でると、イヅナたちが一斉に竹筒に吸い込まれた。

「この大量のイヅナは何? 佑樹や翔太、藤堂がいなくなったのも、イヅナのせいなの?」

「あんた、勘がいいわね。月城家は、イヅナに憑かれた巫女の家系。イヅナは憑いた家に富と権力をもたらしてくれる。私が男子に生理的嫌悪感を感じた瞬間、イヅナの力が発動し、嫌悪対象をイヅナに変えてくれる」

「あの箱の中に佑樹たちが?」

「そうよ。私に言い寄る男はイヅナに変えて竹筒に封印したわ。彼らは、人間の記憶を失いイヅナとして生きる。周囲の人たちの記憶からも消えて、元から存在しなかったことになる」

「佑樹たちは、サッカー部で面倒見もよくてクラスの中心にいた人気者だろ? 何が不満なんだよ」

「心を許していない相手が勝手に告白してきて、いきなり抱きしめてきたから怖かったの。でも周囲が私を勝手に理想化し始めたら、今更引き返せないじゃない」

「イケメンが近づいてきた途端、急に嫌いになる蛙化現象……いや、イヅナにされるイヅナ化現象。怖すぎ」

「御影君、あんたのせいよ」

「どういう意味?」

「覚えてない? 幼稚園の時に一緒にかくれんぼして、二人でカーテンの影で誰にも見つからないように内緒話しながらドキドキしていたこと」

「そういえば。確かにあの時は楽しかった」

「でも御影くんは他の男と違って、私から目を背ける。私はあんたをずっと見てたのに。あんたの前なら、私は嘘じゃない本当の自分でいられる。だから、御影くんは私のものになって。私を愛して」

 違う。彼女と僕の格差が大きすぎて近づけなかっただけだ。まさか環姫が僕に恋愛感情を抱いてくれていたなんて。環姫の腕が僕の背に回る。妖艶な濡れた瞳が、僕を貫こうとする。

「ダメだ。相手を支配して自分のものにするなんて、対等な関係じゃない」

 顔をそむけ拒絶した僕から、環姫が腕をおろした。その悲しそうな瞳のせいで、胸が苦しい。

「……私に幻滅したんでしょ。帰ってよ!」

「僕にとって、環姫は初めての友達だ。君のおかげで、誰かと一緒にいる事が楽しいって心から思えた。だから、誰かを消す事はもうやめてほしいんだ。僕は君と並んでいたい。一緒に同じ音楽を聴いて、他愛ない話をしていたい。佑樹たちを解放して。僕が他の男から絶対に君を護るから」

 僕が真摯に伝えると、環姫が無言で竹筒のイヅナたちを外へと解き放った。

「明日になれば、佑樹くんたちも周囲の人間も、本来送るはずだった日常を取り戻すはずよ」

「環姫。分かってれて有難う」

「相手への気遣いができる御影くんと違って、私は自己中心的な自分が恥ずかしくなった。佑樹くんたちに告白された時、イヅナを使わないで自分の言葉で断れば良かったのよね。人に嫌われるのが怖かったの」

「みんなから好かれる必要なんてないよ。た、環姫には、い、いちおう……『彼氏』がここにいるんだから」

「私に本気で怒ってくれて心配してくれる『彼氏』がね」

 そう言って涙目で微笑んだ素直な環姫に、僕は孤独だった自分を重ねていた。気づくと僕は彼女の額に自分の額を寄せていた。はっとして、慌てて距離を取る。もしかして僕は環姫に惹かれているのだろうか。気を抜くと友達以上の感情を抱いてしまいそうで、僕は彼女を異性として意識しないように努めるのに必死だった。

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