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#2 僕(モブ)のイケメン変身計画

***

 数日後、環姫と一緒に登校してきた僕に校門前で悲鳴が上がった。

「俺の環姫ちゃんが知らないイケメンと登校してる!」

「だから同じクラスの碓井御影だってば!」

 僕が叫ぶと、生徒たちがざわついた。

「あのモブメガネ君? 垢抜けてるじゃん。本当に本人?」

「環姫ちゃんの彼かっこいい」と黄色い声が上がり、調子が狂った僕は玄関のガラス戸に頭をぶつけかけた。

「く、悔しいですわ。環姫さんにこんな素敵な彼氏がいたなんて。絶対に何か秘密がありますわ」

 僕たち二人を鬼の形相で見つめ、拳を握りしめるのは彩園寺すみれだ。黒髪のロングヘアで、時代劇に登場するお姫様のような和風の雰囲気を呈している。昔から学者の家系の月城家と、華道の家元の彩園寺家は地元の名士でライバル関係で、親同士も仲が悪いという噂だ。

「すみれには言ってなかったわね。御免あそばせ?」

 環姫が勝ち誇ったようにほくそ笑んだ。

「私の見立てに間違いはなかったわ。御影くん、あんたは磨けば光る御影石よ。しかもマイナーな存在が一気に脚光を浴びることで、却ってギャップが生まれ注目度が集まってバズるわ。あと何回かラブラブぶりを見せつければ私の圧勝ね。ねえ御影くん、今日はお弁当作ってきたから一緒に食べよ?」

 可愛い声で僕に腕を絡ませて甘えてくる環姫に、男たちの断末魔の声が響き渡った。

「僕もお弁当作ってきたんだけど」

「あんた私の弁当が食べられないって言うの? 二人前食べなさいよ」

 みんなの見ていない死角を狙って、環姫が僕にローキックを食らわし僕は悲鳴を押し殺した。

「うぐっ!」

「い、痛かった? ……ごめんね?」

 申し訳なさそうに小さく手を合わせる環姫の可愛さに、不覚にも動揺してしまった。

***

 昼休み、全校生徒の注目を浴びる中、中庭の花畑で僕は環姫のお手製弁当を食べさせられていた。噴水の後ろで白い動物の影がちらつき、キィと鳴く声がして僕は思わず箸を止めた。一瞬、白い影が大きく伸びた気がした。

「どうしたの?」

「何でもない。このオムレツ、トマトとパセリ入りで彩りが綺麗だね」

「でしょ? 御影くんって休日は何して過ごしてるの」

「音楽聴きながらマリモの水槽を掃除して、今まで会話してくれた人の人数かぞえてる」

「あんた暗いわね……カフェとかカラオケとか行きなさいよ。あ、でも今度マリモの水槽とやらを見せて。私、マリモ見たことないから」

 そこへちょうど、彩園寺すみれが取り巻きを引き連れてやって来た。

「碓井御影さん。お初にお目にかかりますわ」

「去年も僕、彩園寺さんと同じクラスだったんだけど」

「わたくし決めました。御影さん、貴方こそ彩園寺家の婿に相応しい殿方。環姫さんと別れて私とお付き合いする気はございませんこと?」

「え?」

 まさか学園の二大美少女から交際を申し込まれるなんて信じられず、これは夢に違いないと僕は自分の頬を平手打ちした。

「すみれってすぐ人の物を横取りするわよね。それにあんた、彼氏いるでしょ?」

「午前中のうちに全員とお別れしました。御影さん。わたくしと二人きりで甘い時間を過ごしましょ?」

 すみれがはち切れんばかりの豊満な胸を腕組みして揺らし、男子たちがおおっと叫んだ。むっとした表情の環姫と、不敵に微笑むすみれが火花を散らせる間で、僕は言った。

「ごめん。彩園寺さんの気持ちは嬉しいんだけど、僕は環姫以外の子と付き合う気はないから」

「悔しい。この私を袖にした男は御影さんが初めてです。ますます手に入れたくなりましたわ。この彩園寺家、月城家にだけは負けるわけにはいきません。まぁ今日の所はこれぐらいにしておいて差し上げますけれど」

 こめかみを引きつらせたすみれが、捨て台詞を吐いて悔し気に去っていった。

「あの泥棒猫、すぐに人の真似してくるのよね。あ、御影くんの磯部揚げ美味しそうね。私にも食べさせてよ。はい、あーん」

「彩園寺さんに見せつけたからもう十分でしょ。こんなの恥ずかしくて付き合ってられないよ」

 以前は空気扱いされていたのが、今は公衆の面前で環姫に甘えられて顔が熱くて恥ずかしすぎる。

 僕は仕方なく、環姫の桜色の唇の中に青のりをまぶした磯部揚げを一つ入れた。

「美味しい! もしかしてチーズ明太子入れてる?」

「正解」

「でもあたしのオムレツより美味しいのがなんかムカつく。もう一個よこしなさいよ」

「嫌だ。僕のがなくなる」

はしゃぐ環姫の姿を見て嬉しくなった。そして、今までみたいに独りぼっちじゃなくて、誰かと一緒に食べる弁当の味は格別だった。


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