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切り裂かれた静寂 ― 黒瀬のファイル

ホテルのラウンジを出た瞬間、

悠真と茜の頭の中には、黒瀬の冷酷な声が何度も反響していた。


「君たちは“触媒”にすぎなかった。」

「隼人は排除される運命だった。」

「私は、何も失わない。」


雪の夜景に映る光は綺麗なのに、

その美しささえ憎らしく見えた。


エレベーターに乗り込むと、茜がぽつりと言った。


「……あの人、本当に心がないみたい。」


悠真は黙っていた。

怒りだけでは収まらない。胸の奥が燃え続けていた。


「茜。俺は……もう逃げない。

 あいつの“真実”を、世に出す。」


茜は静かに頷いた。

その目の奥には、確かな決意があった。


エレベーターが閉まりかけた、その時。


フロアに響く足音。

慌てたような声。

「佐伯さん! 佐伯悠真さん!」


振り返ると、スーツ姿の若い男性が

封筒を抱えて駆け寄ってきた。

ホテルのスタッフではない。

社員証には見覚えのあるロゴ――


ストラトン本社、東京。

内部監査部。


「……監査部?」

悠真が眉を寄せる。


男は息を整え、封筒を差し出した。


「これ……あなたに渡すよう“指示を受けました”。

 差出人は……」


声が震えていた。


「“高城隼人”とだけ、書かれていました。」


空気が凍りつく。


茜が息を呑む。

悠真は震える手で封筒を受け取り、

すぐにホテルのラウンジの片隅で中身を広げた。


そこには、USBと1枚の紙。


紙には乱れた字で、こう書かれていた。


――“黒瀬翔一の個人ファイル。

   この中に、あいつが恐れている“唯一のデータ”がある。

   もし俺に何かあったら、必ず君が見つけると信じてる。”


署名はなかった。

ただ、隼人の癖のある丸い筆跡だけが残っていた。


茜が涙を浮かべる。

「隼人……あなた……死ぬ前にこれを準備したの?」


悠真はUSBを見つめ、ゆっくり頷いた。


「このファイル……黒瀬が唯一恐れていたもの。

 本物なら、事件は全部ひっくり返る。」


ただの復讐ではない。

これは――真実そのものを暴く鍵だ。


悠真はUSBをノートパソコンに差し込んだ。


画面に表示されたファイル名は、一つだけ。


“PROJECT_SILENCE_FINAL.pdf”

プロジェクト・サイレンス

沈黙計画――最終版


茜が震える声で言った。


「……これって……」


悠真は画面を開いた。

そこに映し出されたのは、


社内派閥の構図、

告発システムの裏ルート、

隼人の追放シナリオ、

茜のメール改変、

そして――


“佐伯悠真を次期部長に据えるための工程表”


それは、黒瀬翔一が

「すべてを操るために作った作戦書」だった。


悠真の心臓が止まる。


「あいつ……始めから俺の人生を設計していたのか。」


茜が震えた声で言った。


「じゃあ隼人も……私も……みんな……黒瀬の計画の“材料”だった……?」


画面の下部に、最後の記述があった。


“隼人が消えれば、佐伯の精神は孤立しやすくなる。

 茜との断絶が続けば、完全に私の支配下に置ける。”


悠真は拳を握り、机を強く叩いた。

「……ふざけるな……っ」


その声は低く、怒りではなく、悔しさに震えていた。


茜はそっと悠真の手を握った。

「悠真……もう一人で背負わなくていい。

 私は、あなたの味方よ。」


悠真は茜の手を握り返した。

その表情には、五年前にはなかった決意があった。


「黒瀬翔一。

 お前だけは……絶対に許さない。」


ホテルの窓の外では吹雪が激しくなり、

街の光が雪の向こうに滲んでいた。


二人の視線は、同じ一点へ向いていた。

“黒瀬の全てを暴く”という、同じ未来へ。

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