表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/50

大通ホテル ― 真実への扉

札幌・大通。

夕暮れの街は雪に包まれ、白い粒がネオンの光を滲ませていた。

街路樹のイルミネーションが静かに瞬き、

人々の足音が雪を踏む音だけが響く。


その中心にそびえる高級ホテル――

黒瀬翔一が会議に使うという場所が、異様なほど静かだった。


ロビーに足を踏み入れると、

暖房のぬくもりとは裏腹に、

悠真と茜の心は張りつめていた。


「……ここに、本当に黒瀬が?」

茜の声は緊張で少し震えている。


「来る。あいつは“予定を崩さない男”だ。」

悠真も声の奥に硬い意志を秘めていた。


フロントには人が少なく、

ロビーの奥には重厚なエレベーターが並んでいる。

二人は時間を確認する。


午後六時まで、あと十分。


すると――

奥の自動ドアが開き、一人の男が姿を現した。

黒いコート、整えられたスーツ、

そして昔と変わらない冷徹な眼差し。


黒瀬翔一。


悠真の心臓が跳ね上がった。

あの背中を、何度見てきたことか。

信じてついていき、裏切られたことすら気づかなかった男。


黒瀬はこちらに気づき、一瞬だけ足を止めた。

しかし驚きもしない。

むしろ、予定していたかのように近づいてきた。


「……来ると思っていたよ。」


その声は昔と変わらなかった。

冷たく、感情を削ぎ落としたような声。


「黒瀬さん。」悠真が前に出る。

「聞きたいことがある。」


「全部わかっている。

 だが、ここでは話せない。」


黒瀬はロビー奥の会議フロアへ続く通路を指した。

二人を導くように歩き出す。


エレベーターで最上階へ。

扉が開くと、落ち着いた空間のラウンジが広がっていた。

窓から夜景が見下ろせる。

雪に霞む札幌の光が、静かに揺れている。


黒瀬は席に座り、足を組んだ。

悠真と茜も向かいに座る。


「さて――どこから話そうか。」


悠真は迷いなく口を開いた。

「五年前の告発。それを操作したのは、あんたか。」


黒瀬はわずかに微笑した。

「操作? 正確には“調整”だ。

 組織の秩序を保つための、必要な手続きだよ。」


「必要……?」

茜の目が怒りで揺れる。


「隼人は能力はあったが、あまりにも危うい男だった。

 協調性がなく、上層部にも敵が多かった。

 彼は“処理”される運命だった。」


「だから罠に嵌めた?」悠真が声を低くする。


「罠ではない。

 彼が送ったメールは事実だった。

 ただ、君たち三人の関係は“調整”に利用した。」


茜が身を乗り出す。

「どうして私まで……!」


黒瀬は静かに彼女を見る。

その視線は、まるで研究対象を見るような冷たさ。


「君はただの“触媒”だ。

 佐伯を揺さぶり、隼人との感情のもつれを作れば、

 自然と自壊していく。

 組織は“自然に崩れたように見える結末”を好むものだ。」


悠真の拳が震える。

「……俺たちは、あんたの道具だったのか。」


「組織とはそういうものだ。

 個人の感情など、調整対象にすぎない。」


黒瀬はグラスの水を口に含み、

淡々と続けた。


「隼人は排除された。

 君は中枢に残り、利用価値があった。

 だが――君は復讐に走り、自ら道を外れた。」


悠真は黙って顔を上げた。

黒瀬の目には一切の後悔も揺らぎもない。


茜が低い声で言った。

「あなたは……人を壊したのよ。」


「壊れてくれた方が都合が良かった。

 “告発者同士の嫉妬劇”として処理できたからね。」


「あんた……!」

悠真が立ち上がろうとした瞬間――

黒瀬が静かに手を上げた。


「感情は不要だ。

 だが、一つだけ言っておく。」


黒瀬は冷たく笑った。


「隼人は、自分が“誰の駒だったか”最後まで気づいていなかった。

 君たちが追い詰めたんじゃない。

 最初から、彼の席は決まっていた。」


その言葉に、茜の目から涙が溢れた。

悠真は拳を震わせながらも、椅子に深く座り直した。


黒瀬は最後に、淡々と告げた。

「真実とは残酷だ。

 だが、その残酷さを受け入れた者だけが――先へ進める。」


悠真はゆっくりと口を開いた。

「……俺はその真実を“許さない”。

 あんたが作った地獄も、

 あんたが壊した人生も、

 全部――表に出す。」


黒瀬は、まるでそれを待っていたかのように微笑した。

「やれるものなら、やってみろ。

 私はもう、何も失わない。」


ホテルの外では雪が激しく舞い、

まるで真実という刃が空から降り注いでいるようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ