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黒瀬翔一 ― 操られた五年

名前を聞いた瞬間、

悠真の呼吸が一拍遅れ、心臓が強く脈打った。


黒瀬翔一。

かつての直属の上司であり、

悠真を“ストラトンのエース”に育て上げた男。


尊敬していた。

信じていた。

だからこそ――疑いすらしなかった。


茜が震える声で呟いた。

「黒瀬さんが……隼人を……?

 そんな……信じられない。」


瑠衣は冷静に続けた。

「彼は、人を“能力”と“利用価値”でしか判断しない。

 あなたたち三人の関係に気づいた時点で、

 もう動き出していたのよ。」


「三人の関係に?」

悠真が眉を寄せる。


「そう。

 当時、あなたと隼人は同部署。

 茜さんは内部プロジェクトの庶務として接点があった。

 三人は全て“黒瀬の領域”にいた。」


瑠衣はPCを操作し、五年前のメールログを映し出した。

そこには送信時間の数秒後に

不自然な“アクセス”が記録されている。


「見て。このログを改ざんしていたのが、黒瀬。」


悠真は言葉を失った。

その画面は、五年間抱え続けた“全ての前提”を壊していく。


「じゃあ……隼人は最初からターゲットだった?」


「そう。

 本社の派閥で浮いていた。

 彼を失脚させるために“匿名告発システム”を利用した。」


「そして俺たち夫婦は……」


「巻き込まれた。

 茜さんの告発メールが“隼人が茜を利用した”ように改変され、

 同時に社内の噂としてあなたにも流された。」


茜の肩が震えた。

あの日から始まった地獄は、

“裏切り”でも“誤解”でもなかった。


仕組まれていた。

最初から。


悠真は拳を握り、机に置いた。

「黒瀬翔一……

 あの男が、全部の始まりだったのか。」


瑠衣は静かに頷いた。

「正確には――

 彼は“きっかけ”に過ぎない。

 あなたたちが信じ、疑い、壊してしまった部分は……

 誰のせいにもできない。」


その言葉は痛かった。

しかし、避けて通れない真実だった。


茜が瑠衣を見つめて問う。

「じゃあ……隼人はどうして“Report_0”を残したの?」


瑠衣は少しだけ目を伏せた。

「彼は気づいていた。

 自分が利用され、あなたたちが傷ついていく構図を。」


「そんな……隼人は何も言ってくれなかった。」

茜の声が震える。


「言えなかったのよ。

 黒瀬が情報を握っていた。

 あなたたちを守るために、沈黙するしかなかった。」


沈黙。

長く、重く、冷たい沈黙が流れる。


瑠衣は続けた。

「でも、死ぬ前に彼は気づいた。

 “沈黙では誰も救われない”って。

 だから初期データを私に託した。」


悠真は立ち上がる。

拳が震えている。


「黒瀬に会う。

 真相を確認する。」


茜も立ち上がる。

「私も行く。

 あの人に……全部聞きたい。」


瑠衣は二人を見つめた。

その眼差しには、深い憐憫と決意があった。


「気をつけて。

 黒瀬翔一は、まだ“現役の権力者”よ。

 真実なんて、彼にとっては取るに足らないゴミ。」


それでも二人は後退しなかった。

ここまで来たら、引き返す道はない。


瑠衣は最後に一つだけ付け加えた。

「黒瀬は、今日の午後六時。

 札幌の大通にあるホテルで会議の予定がある。

 そこで直接聞くといい。」


悠真は深く頷く。

「行こう、茜。」


茜は雪の降る窓の外を一度見つめ、

ゆっくりと頷いた。


「五年前の真実を……取り戻しに行こう。」


二人は研究所を出た。

外では雪が激しく降り始めていた。


まるで、暴かれるべき真実が

その雪に押し潰されまいと、最後の抵抗をしているかのように。

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