凍てつく光 ― 赦しのはじまり
東京の報道局。
ニュース速報のテロップが流れた。
「高城隼人氏の最終報告書“Report_0”公開」
「5年前の内部告発事件、真相が明らかに」
画面には、匿名投稿として届いた文書の冒頭が映し出されていた。
その署名欄に刻まれていたのは、確かに――高城隼人の名前だった。
世間は騒然となった。
SNSでは「最後の正義」「亡霊の告白」といった言葉がトレンドに並ぶ。
人々は真実を求めながらも、また誰かを責める理由を探していた。
苫小牧の小さな宿。
悠真と茜は、窓の外で吹き荒れる雪を見ていた。
テレビの音を切り、ただ無言でニュースの字幕を追う。
「……出たのね。」茜が呟く。
悠真は頷いた。
「これで、あいつの名前は“正義の告発者”として残る。」
「でも、私たちは?」
「俺たちは――沈黙の共犯者さ。」
茜は微笑んだが、その瞳はどこか遠くを見ていた。
「それでもいい。
もう、誰かに認めてもらうために生きるのはやめたい。」
悠真はしばらく沈黙し、ポケットから古いレコーダーを取り出した。
「これ、まだ壊れてないんだ。」
赤いランプがぼんやりと灯る。
再生ボタンを押すと、雪の音のようなノイズの中で、隼人の声が微かに響いた。
「……人は、赦されることでしか前に進めない。
でも“赦す”ってのは、忘れることじゃない。
痛みを抱えたまま、生きていくことだ。」
茜の手が震えた。
悠真は静かにその手を握る。
「赦しって……やっぱり、誰かに許されることじゃないんだな。
自分が自分を許すことなんだ。」
「そうね。」茜は小さく笑った。
「だから、もうあの夜のことも、全部このまま受け入れよう。」
翌朝。
苫小牧の街は快晴だった。
雪が太陽に照らされ、無数の光の粒が空に舞っていた。
二人は駅に向かう道を歩いていた。
寒さで頬が赤くなっているが、どこか清々しい。
「これからどうする?」悠真が聞いた。
「少し南へ行きたい。……札幌に。」
「理由は?」
「隼人の遺品が、まだ一つだけ残ってる。
“最初の告発メール”を保存していた古い端末。
たぶん、そこに本当の“始まり”がある。」
悠真は頷いた。
「分かった。行こう。」
駅に着くと、構内に朝の光が差し込み、
雪解けの水が床に反射して眩しく光っていた。
茜がその光を見つめながら言った。
「見て、悠真。
まるで……凍ってた時間が、少しずつ溶けていくみたい。」
悠真は微笑んだ。
「あいつが残した“凍てつく光”だ。
俺たちが、それを見届ける番だ。」
列車が到着し、二人は乗り込んだ。
ドアが閉まる直前、茜が振り返り、
雪の街を見つめて小さく呟いた。
「ありがとう、隼人。」
列車が動き出す。
白い大地を貫く銀の線路の上で、
二人の旅が、静かに新しい章を開こうとしていた。




