企業正義の屍 ― 新たな炎上
朝九時。
ニュースサイト《フォーカス・ビジネス》のサーバに、一本の記事が予約投稿された。
> 「企業内部通報の影 ― 匿名正義の代償」
> 著:中條理沙
その本文には、匿名リークの詳細な時系列、送信アドレスの特徴、
そして——**「S・Y」**という頭文字。
記事は配信後わずか三十分でトレンド一位に躍り出た。
会社のPR部は騒然としていた。
「S・Y……ストラトンの内部報告担当の頭文字だ」
「つまり、佐伯悠真か?」
すぐに内部チャットが炎上した。
> 「あの人、やっぱり通報者だったの?」
> 「正義の味方面して、全部壊しただけじゃないか」
たった三文字のイニシャルが、
一人の人生を焼き尽くす引き金になった。
午後、会社は緊急声明を発表した。
> 「弊社は、報道にある通報者との関係を一切持ちません。
> 社内調査の結果、個人的動機による情報流出の可能性があると判断しました。」
つまり、切り捨て。
悠真は“内部通報制度の汚点”として扱われた。
ニュースのコメント欄は再び“正義”で溢れた。
> 「通報者も責任を取れ」
> 「人を壊した正義なんていらない」
> 「もう正義ごっこはやめろ」
人々は、新しい敵を見つけたときのように、興奮していた。
夜、悠真の自宅。
机の上には、朝から届いたメールの山。
その中に一通だけ、差出人不明のメールがあった。
> 件名:【見てるよ】
> 本文:「あなたが作った正義は、あなたを裁く。」
悠真は無言でモニターを閉じた。
窓の外には、テレビ局のクルーが車を停めていた。
レンズがこちらを向いている。
彼は笑いながら呟いた。
> 「ようやく、俺も“ニュースの素材”か。」
一方その頃、地方の安ホテル。
茜はノートパソコンで同じ記事を読んでいた。
スクロールを止め、悠真の名前を見つめる。
> 「やっと……出てきたのね。」
画面を閉じると、彼女は小さく笑った。
その笑みは、怒りでも安堵でもない。
——ただ、終わりを悟った人間の笑み。
> 「次は、私の番よ。」
翌朝。
ネット掲示板には、ひとつの投稿が立った。
> 「リーク元は本当に佐伯なのか?
> いや、会社ぐるみの捏造かもしれない。」
そこに貼られたリンク——“第2の報告書”。
発信元は不明。
だが、文体は……悠真の書式に酷似していた。
> 「誰かが俺を使っている。」
悠真は息を呑んだ。
復讐の構造が、再び回り始めた。
そして今度は、自分が“操作される側”だった。




