表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/63

計画の序章~裏切り者たちに告げる宣戦布告~

朝の光がカーテンの隙間から差し込み、佐伯悠真はゆっくりと目を開けた。

 茜はすでに起きている。台所からは、味噌汁の香りとトーストが焼ける匂い。

 普段と何一つ変わらない朝――だが、悠真にとっては全てが「演出」にしか見えなかった。


 「今日はお弁当、いらない?」

 「うん、外で食べるよ」

 「そう。無理しないでね」

 茜の声は優しい。だが、その言葉の裏にある「嘘の厚み」が、彼にはもう見える。


 食卓の上の新聞をめくりながら、悠真は淡々と計画の一手目を思い描いていた。

 昨日、隼人のマンションで撮った写真データは、すでにUSBに保存済み。

 そして今朝、彼は会社のセキュリティチームに「匿名の通報メール」を送信した。

 ――件名:【高城隼人による情報漏洩の可能性について】。

 中身は、プロジェクト関連の資料コピーと、出張経費の不審な履歴。

 もちろん、証拠は「存在しない」。だが、疑いを作ることは簡単だ。


 会社の人間関係は、少しの火種で燃え上がる。

 悠真はその性質を、長年マネージャーとして誰よりも知っていた。



 午前十時。オフィス。

 フロアに入った瞬間、ざわめきが耳に入る。

 「聞いた? 高城さん、監査部に呼ばれたらしいよ」

 「まじで? 最近なんか焦ってたもんね」

 ざわつく声。

 悠真は無言のままデスクにつき、PCを開いた。

 ほどなくして、上司の田代部長がやってくる。

 「悠真くん、例の顧客データ、誰がアクセスできるか分かるか?」

 「はい。アクセス権限は私と高城だけです」

 「そうか……じゃあ彼が持ち出した可能性があるってことだな」

 「……確認しておきます」


 短いやり取りの中で、悠真の心拍は一度も乱れなかった。

 「これは、序章だ」

 彼の中で冷たく固まった言葉が、再び形を持つ。


 ◇


 昼休み。

 屋上のベンチで、スマホの画面を指でなぞる。

 茜の連絡履歴には、昼休みにも「隼人」とのメッセージがあった。

 だが今日は、既読がつかない。

 「……監査中か」

 彼は小さく呟き、コーヒーを一口飲む。

 無風の青空。沈黙だけが心地よい。


 その午後、茜からメッセージが届く。

 > 『今日、少し遅くなるかも。ママ友の集まりがあって』

 悠真は「了解」とだけ返した。

 だが彼の頭の中には、もう一つの“集まり”の場所が浮かんでいた。

 ――隼人のマンション、305号室。

 GPS追跡アプリ「FindMyFamily」に登録された茜の端末が、そこに向かって動き出すのを確認する。

 まるで舞台の幕が、静かに上がる瞬間のようだった。


 ◇


 夜七時十五分。

 悠真は車をゆっくりとマンションの前に停めた。

 エントランスのガラス越しに、二つの影が重なる。

 茜の笑い声が、かすかに風に混じって届く。

 「……楽しそうだな」

 その声を聞きながら、悠真はポケットから小型カメラを取り出した。

 撮影は十秒。

 それで十分だった。


 彼は車に戻り、深く息を吐いた。

 「次は――お前たちの“信頼”を壊す番だ」

 ノートPCを開き、匿名SNSの投稿画面を立ち上げる。

 アカウント名は「takumi_project」。

 投稿内容には、ぼかした写真と暗示的な文を添える。


 > 『ある上司の妻が、部下と密会している。証拠あり。#社内不倫 #裏切り #正義の目』


 投稿ボタンを押した瞬間、

 画面の向こうで、何かが確実に「壊れ始めた」。


 帰宅は深夜近く。

 茜はリビングでスマホを見つめていた。

 「……どうした?」

 悠真の声に、彼女は少しだけ顔を上げる。

 「なんか……変な噂が出てるの。会社のSNSに……」

 「噂?」

 「うん。高城くんが誰かと不倫してるって」

 「へえ、誰だろうね」

 「……さあ」

 沈黙。

 彼女の指がわずかに震えている。

 悠真はその様子を、何も言わず見つめ続けた。


 「信頼」という言葉が、どれほど脆いものか。

 彼はようやく、知っている者の顔をしていた。


 ――宣戦布告は完了した。

 次は、「報復」の段階へ進むだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ