表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/45

虚構の正義 ― 茜、再起動

 冬の東京、灰色の雲が空を覆っていた。

 佐伯茜はマフラーを巻き、渋谷の雑踏の中を歩いていた。

 目的地は一軒の古いカフェ――記者・西川由梨が指定した場所だ。


 カフェの窓際。

 由梨はすでに待っていた。

 ノートパソコンの画面には、無数のタブ。

 その中のひとつに映るのは、例の匿名投稿――ZeroPoint。


 茜が席に着くと、由梨はコーヒーを一口飲んで言った。

 「あなたが来ると思ってた」

 「私も。……あの投稿、あなたが動くと思った」

 「ええ。でも、それ以上に――あなたが動くと思ったの」


 二人の視線が交わる。

 空気に、探り合うような緊張が漂った。


 由梨がノートパソコンを回す。

 画面には、ZeroPointの最新投稿。

 タイトルは《The Second Mirror》。


 > 「正義を名乗る者よ。

 > あなたが信じている構造そのものが、腐敗の温床だ。

 > 罪を消すのではなく、晒せ。

 > 俺は、そのために戻ってきた。」


 投稿には再び暗号が添付されていた。

 15 - 1 - 11 - 1 - 14

 由梨は素早く変換して見せた。

 「‘OAKAN’……『茜(AKANE)』よ」

 茜の指が震えた。


 「彼、わざとよ。私に見せるために。」

 「そうね。まるで“挑発”みたい」

 由梨は静かに言葉を続けた。

 「彼は今もあなたを中心に動いてる。

  あなたの存在が、彼の“正義の定義”になってる」


 茜は笑った。

 だがその笑みは、痛みに似ていた。

 「正義ね……あの人が一番壊したものを、まだ名乗ってるなんて」


 編集部に戻った由梨は、調査チームを集めた。

 「ZeroPointの投稿サーバーを追う。VPN経由でも構わない、断片的な痕跡を探して」

 「内部関係者ですか?」

 「たぶん違う。

 でも内部に“近い誰か”――つまり、元社員。

 失踪した佐伯悠真が死んだとされてるけど、遺体が確認されてない」


 チームがざわめく。

 モニターには、複数のログが表示される。

 発信地:北海道・札幌市中央区

 「……来たわね」

 由梨は立ち上がった。

 同時に、茜にメッセージを送る。


 > 「彼の信号を掴んだ。

 > 札幌。あなたも覚悟して。」


 夜。

 茜の部屋には、ひとつのファイルが開かれていた。

 タイトルは《Project ZERO – Counterplan》。

 そこには細かく書き込まれた項目が並ぶ。


 1. 由梨経由でメディアにリーク経路を構築。

 2. ZeroPointの投稿時刻と内部サーバー同期時間を照合。

 3. 悠真本人が使用していたVPN認証の共通鍵を逆追踪。

 4. 次回投稿前に「偽のログ」を挿入。


 茜はメモを閉じ、窓の外を見た。

 「あなたの“構造”、壊してあげる」

 その声は、震えるほど冷たかった。


 札幌の夜。

 悠真はバーのカウンターでウイスキーを飲んでいた。

 店内のテレビでは、ZeroPointに関するニュースが流れている。

 「……やっぱり、動いたか」

 彼の唇に笑みが浮かぶ。


 だが、その笑みの裏には、かすかな不安があった。

 茜の反応が、予想より早い。

 まるで、彼の手の内を読んでいるかのように。


 ポケットのスマホが震える。

 差出人不明。本文は一行。


 > 「正義の亡霊へ――あなたの“鏡”は、もう歪んでいる。」


 悠真は目を細め、静かに呟いた。

 「……来たな、茜。」


 雪が窓の外で舞う。

 その白い世界の中で、男と女の“正義”が、再び交差し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ