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コメディー短編(現代社会)

佐藤と鈴木

作者: 多田 笑

少しでも笑っていただけたら嬉しいです。

 俺は天才詐欺師。


 今回、俺が編み出した新しい手口──その名も『人口が多い苗字詐欺』


 日本には、佐藤という苗字の方が180万人以上いる。


 幼稚園でも、小学校でも、中学でも高校でも、必ず同級生か他学年に“佐藤”がいた。


 つまり街で「おい、佐藤!」と呼べば、必ず何人かは振り向く。


 そこへ知り合いのフリをして近づき、油断させて金を借りる……。


 完璧な計画だ。



 人通りの多い繁華街で、俺は叫んだ。


「おい! 佐藤!」


 予想通り、数人が振り向く。


 俺はその中で年齢の近そうな青年に駆け寄った。


「佐藤! 久しぶりだな! こんなところで会うなんて偶然だな」


 キョトンとする青年。


「俺だよ、鈴木だよ」


 俺がそう名乗ると、青年はハッとした顔をする。


「ああ~、高校で隣のクラスだった鈴木?」


──かかった!


 鈴木という苗字の方も、日本に170万人以上。


 誰の人脈にも必ず一人はいるだろう。


 万一いなくても「人違い」で済ませればいい。


「そうそう、その鈴木だよ。佐藤、元気にしてた? 今は何の仕事をしてるんだ?」


「元気だったよ。今は保険の営業だよ」


「おお、営業か。大変だなぁ」


 雑談で警戒心を解いたところで、本題に入る。


「ところで……悪いんだけど、さっき財布とスマホを落としちゃってさ。電車賃がなくて帰れないんだ。千円でいいから貸してくれない?」


「……大変だな。いいよ、千円なら」


「さすが佐藤! 恩にきるよ。今度連絡するから、連絡先も教えて」


 千円を受け取り、連絡先まで聞き出す。


 くっくっく……

 人の良い男だ。ありがとよ、佐藤。



 その後、別の通りに移動。


「おい! 佐藤!」


 また数人が振り向く。

 俺は再び、年齢の近い青年に近寄った。


「久しぶりだな~! 佐藤、元気だった?」


 青年はキョトンとしている。


「俺だよ、鈴木だよ」


 すると青年の目が輝いた。


「まさか……幼稚園の頃、犬のフンで泥団子を作ってた“フンコロガシの鈴木”!?」


 ……いやいやいや。そんな異名、いらないんだけど。


「ち、違う……その鈴木じゃない」


「じゃあ! 小学校の頃、大雪の日に半袖短パンで登校してきた“絶対零度の鈴木”!?」


 ……ちょっとカッコいいけど嫌だ!


「ち、違う……」


「じゃあ中学の時、右腕に包帯を巻いて“俺を怒らせるな、この右腕の闇が暴走する!”とか言ってた“暗黒の鈴木”!?」


 暗黒……。その鈴木、暗黒……。

 完全に中二病をこじらせてるだろ!


「ち、違うって!」


「じゃあ……高校の時、トイレットペーパーをブンブン振り回して“ここを通りたければ俺を倒せ!”って叫んでた“トイレの番人の鈴木”!?」


 ……なんでお前の周りの鈴木は全部変なんだよ!?


「ご、ごめん、人違いだった……」


 俺は逃げるようにその場を後にした。



 翌日。


「くそっ……昨日は妙な奴に当たっちまった……」


 気を取り直し、今日は“佐藤”ではなく“鈴木”と呼んでみることにした。


「おい! 鈴木!」


 ──その瞬間、通りを歩いていた人間全員が振り向いた。


 え? ちょっと待って……全員、“鈴木”なの!?


 呆然としていると、一人の老人が近づいてきた。


「お主……よくワシを知っておるな。“フンコロガシの鈴木”とはワシのことじゃ!」


 ええ~!? この人が“フンコロガシの鈴木”?


 ちょ、待てよ……どういうことだ? 昨日の佐藤は“幼稚園の頃”って言ってたよな?


 え、まさか園長先生? いやいや……いい年して犬のフンで泥団子こねてたの?


 そんなことを考えていると、さらにサラリーマン風の男が名乗りを上げる。


「フッ……俺の右腕の闇に気づくとはな。“暗黒の鈴木”とは俺のことだ!」


 ええ~!? “暗黒の鈴木”までいた……!

 

 しかも社会人になっても、まだ中二病全開!? さ、さすが……“暗黒の鈴木”!


 続いて、トイレットペーパーをブンブン振り回す中年男が出現。


 え? まさか……“トイレの番人の鈴木”!?


「ふん……僕のことを知っているのか。そう、僕は“絶対零度の鈴木”! 君の攻撃では僕を倒せないさ」


 ち、違った~~! “絶対零度の鈴木”だった~~!


 え? じゃあ……“絶対零度”と“トイレの番人”は同一人物!?


 でも昨日のアイツより明らかに年上だし……どういうこと? しかも、中二病こじらせてるし……!


「さあ、名乗れ! お主は何の鈴木じゃ!?」


「ひっ……!」


 俺は大勢の鈴木に囲まれ、慌てて逃げ出した。


 そして心に誓った。


 二度と、詐欺なんてするものか……と。

全国の佐藤様、鈴木様

大変申し訳ありませんでした……。


最後までお読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。


尚、この話は詐欺を助長するものではございません。

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― 新着の感想 ―
『ちょっとかっこいいけど嫌だ』とかツボなんですが(笑) 皆で同窓会したら楽しそう! メジャーな苗字だとクラスに2人とかいるんですよね。そうすると分かりにくいからって、下の名前で呼ばれていて、いいなぁっ…
 本当に、主人公ではありませんが、そんなに変な鈴木さんばかり知り合いにいる佐藤さんは何者だったのでしょうか……。変な鈴木さんといえば、『幽遊白書』の登場人物、「美しい魔闘家・鈴木」を思い出しました。そ…
楽しかったです。(ᵔᴥᵔ) 何がなんだか理屈は 置いておいて ホイと( ̄。 ̄ノ)ノ 笑ってしまったので、もう作者様の勝ちということで、文句無しでございます。本当に、更新頻度の素晴らしさ。 こんなコメデ…
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