佐藤と鈴木
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
俺は天才詐欺師。
今回、俺が編み出した新しい手口──その名も『人口が多い苗字詐欺』
日本には、佐藤という苗字の方が180万人以上いる。
幼稚園でも、小学校でも、中学でも高校でも、必ず同級生か他学年に“佐藤”がいた。
つまり街で「おい、佐藤!」と呼べば、必ず何人かは振り向く。
そこへ知り合いのフリをして近づき、油断させて金を借りる……。
完璧な計画だ。
◇
人通りの多い繁華街で、俺は叫んだ。
「おい! 佐藤!」
予想通り、数人が振り向く。
俺はその中で年齢の近そうな青年に駆け寄った。
「佐藤! 久しぶりだな! こんなところで会うなんて偶然だな」
キョトンとする青年。
「俺だよ、鈴木だよ」
俺がそう名乗ると、青年はハッとした顔をする。
「ああ~、高校で隣のクラスだった鈴木?」
──かかった!
鈴木という苗字の方も、日本に170万人以上。
誰の人脈にも必ず一人はいるだろう。
万一いなくても「人違い」で済ませればいい。
「そうそう、その鈴木だよ。佐藤、元気にしてた? 今は何の仕事をしてるんだ?」
「元気だったよ。今は保険の営業だよ」
「おお、営業か。大変だなぁ」
雑談で警戒心を解いたところで、本題に入る。
「ところで……悪いんだけど、さっき財布とスマホを落としちゃってさ。電車賃がなくて帰れないんだ。千円でいいから貸してくれない?」
「……大変だな。いいよ、千円なら」
「さすが佐藤! 恩にきるよ。今度連絡するから、連絡先も教えて」
千円を受け取り、連絡先まで聞き出す。
くっくっく……
人の良い男だ。ありがとよ、佐藤。
◇
その後、別の通りに移動。
「おい! 佐藤!」
また数人が振り向く。
俺は再び、年齢の近い青年に近寄った。
「久しぶりだな~! 佐藤、元気だった?」
青年はキョトンとしている。
「俺だよ、鈴木だよ」
すると青年の目が輝いた。
「まさか……幼稚園の頃、犬のフンで泥団子を作ってた“フンコロガシの鈴木”!?」
……いやいやいや。そんな異名、いらないんだけど。
「ち、違う……その鈴木じゃない」
「じゃあ! 小学校の頃、大雪の日に半袖短パンで登校してきた“絶対零度の鈴木”!?」
……ちょっとカッコいいけど嫌だ!
「ち、違う……」
「じゃあ中学の時、右腕に包帯を巻いて“俺を怒らせるな、この右腕の闇が暴走する!”とか言ってた“暗黒の鈴木”!?」
暗黒……。その鈴木、暗黒……。
完全に中二病をこじらせてるだろ!
「ち、違うって!」
「じゃあ……高校の時、トイレットペーパーをブンブン振り回して“ここを通りたければ俺を倒せ!”って叫んでた“トイレの番人の鈴木”!?」
……なんでお前の周りの鈴木は全部変なんだよ!?
「ご、ごめん、人違いだった……」
俺は逃げるようにその場を後にした。
◇
翌日。
「くそっ……昨日は妙な奴に当たっちまった……」
気を取り直し、今日は“佐藤”ではなく“鈴木”と呼んでみることにした。
「おい! 鈴木!」
──その瞬間、通りを歩いていた人間全員が振り向いた。
え? ちょっと待って……全員、“鈴木”なの!?
呆然としていると、一人の老人が近づいてきた。
「お主……よくワシを知っておるな。“フンコロガシの鈴木”とはワシのことじゃ!」
ええ~!? この人が“フンコロガシの鈴木”?
ちょ、待てよ……どういうことだ? 昨日の佐藤は“幼稚園の頃”って言ってたよな?
え、まさか園長先生? いやいや……いい年して犬のフンで泥団子こねてたの?
そんなことを考えていると、さらにサラリーマン風の男が名乗りを上げる。
「フッ……俺の右腕の闇に気づくとはな。“暗黒の鈴木”とは俺のことだ!」
ええ~!? “暗黒の鈴木”までいた……!
しかも社会人になっても、まだ中二病全開!? さ、さすが……“暗黒の鈴木”!
続いて、トイレットペーパーをブンブン振り回す中年男が出現。
え? まさか……“トイレの番人の鈴木”!?
「ふん……僕のことを知っているのか。そう、僕は“絶対零度の鈴木”! 君の攻撃では僕を倒せないさ」
ち、違った~~! “絶対零度の鈴木”だった~~!
え? じゃあ……“絶対零度”と“トイレの番人”は同一人物!?
でも昨日のアイツより明らかに年上だし……どういうこと? しかも、中二病こじらせてるし……!
「さあ、名乗れ! お主は何の鈴木じゃ!?」
「ひっ……!」
俺は大勢の鈴木に囲まれ、慌てて逃げ出した。
そして心に誓った。
二度と、詐欺なんてするものか……と。
全国の佐藤様、鈴木様
大変申し訳ありませんでした……。
最後までお読みいただきありがとうございます。
誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。
尚、この話は詐欺を助長するものではございません。