2-1 禁断の実験
翌朝、隆は早起きして学院の実験室に向かった。昨夜考えた実験を実行するためだ。幸い、朝の時間帯は誰も使っていない。
実験室には各元素に対応した魔法道具が並んでいる。水を入れるための水晶製の器、魔力を集中させるための導石、そして実験結果を記録するための魔法紙。
「まずは水の電気分解から始めよう」
隆は器に清水を満たし、深呼吸をした。この世界の人々は水を単一の元素だと信じているが、実際にはH₂O——水素原子2個と酸素原子1個の化合物だ。
「水分子の結合エネルギーを上回る魔力を加えれば、分解できるはず……」
隆は水分子の構造を頭に思い浮かべた。酸素原子を中心に、104.5度の角度で水素原子が結合している分子構造。そして、その結合を断ち切るために必要なエネルギー量。
手を水面にかざし、意識を集中する。
「分解せよ……H₂O → H₂ + O₂」
その瞬間、水面で異変が起こった。小さな泡が次々と発生し始めたのだ。泡は二種類あり、片方は軽やかに上昇し、もう片方はやや重そうに浮上する。
「成功だ!水素と酸素が分離している!」
隆は興奮を抑えきれなかった。この世界で初めて、水が単一元素ではないことを証明したのだ。
さらに実験を続ける。分離した気体の一方——軽い方の気体に小さな火を近づけた。
ポン!という小さな爆発音とともに、気体が燃焼した。水素の燃焼反応だ。そして残ったのは、再び水の分子だった。
「H₂ + O₂ → H₂O……完璧だ」
しかし、隆の実験を見ている者がいた。
「何をしているのかね、田中君?」
振り返ると、マーカス教授が立っていた。表情は険しい。




