10-4 隆の葛藤
その夜、隆は一人で学院の最上階にいた。窓の向こうには、二つの月が美しく輝いている。この世界の象徴的な光景だった。
「元の世界に帰るか……」
隆は自分の研究資料を見つめていた。この世界で学んだことを元の世界に持ち帰れば、人類の科学は一気に数百年進歩するだろう。量子魔法理論、核融合制御技術、次元間エネルギー抽出——どれも地球の科学界にとって革命的な発見だった。
「でも……」
隆の脳裏に、ルナたちの笑顔が浮かんだ。この世界で出会った仲間たち、教え子たち、そして自分を慕ってくれる人々の顔。
コンコン、とドアがノックされた。
「田中さん?」
ルナの声だった。
「入ってください」
ルナが入ってくると、隆は率直に自分の悩みを打ち明けた。
「ヴィクターさんの話を聞いて、考えているんです。僕も元の世界に帰るべきなのかもしれません」
ルナは黙って隆の隣に座った。
「田中さんの気持ちは分かります。元の世界には、田中さんを待っている人たちがいるはずです」
「ルナさん……」
「でも、私は言いたいことがあります」
ルナは隆を見つめた。
「田中さんがいなければ、この世界の発展は止まってしまいます。まだまだ学ばなければならないことがたくさんあるんです」
「君たちなら、僕がいなくても……」
「それは違います」
ルナは強く首を振った。
「田中さんは私たちの先生であり、導き手であり……そして」
ルナの頬が赤く染まった。
「私にとって、かけがえのない人です」




