5-2 不確定性原理の魔法
「まずは波動関数から始めましょう」
隆は実験台に小さな石を置いた。
「この石の位置と運動量を同時に正確に測定することは、量子力学では不可能とされています。これを不確定性原理と言います」
「でも、石は明らかにそこにありますよね?」
セレナが首をかしげる。
「そう見えるだけです。実際には、石は確率的にしか存在していない」
隆は石に意識を集中した。量子力学的な状態を魔法で再現しようと試みる。
「石の存在確率を操作し、複数の位置に同時に存在させる……」
その瞬間、信じられない現象が起こった。石がぼやけて見え始め、同時に複数の場所に存在しているように見える。
「これは……!」
ルナが声を失った。石は確かに複数の位置に同時に存在していた。
「量子重ね合わせ状態です。観測するまでは、石はすべての可能な位置に同時に存在しています」
隆が石に触れた瞬間、石は一つの位置に収束した。波動関数の収束現象だ。
「観測によって状態が決定される……これが量子力学の根本原理の一つです」
「つまり、観測者の意識が現実を決定するということですか?」
セレナの指摘は鋭かった。
「その通りです。そして、この原理を応用すれば……」
隆は自分の手に意識を集中した。自分自身を量子的な存在として認識し、複数の位置に同時に存在させようと試みる。
「田中さん、危険です!」
ルナが警告したが、もう遅かった。隆の姿がぼやけ始め、実験室の複数の場所に同時に現れた。
「成功……した?」
複数の隆が同時にしゃべる。不思議な感覚だった。複数の視点から同時に世界を見ている。
「でも、これを維持するのは……」
隆は集中を切った。すると、複数に分かれていた存在が一つに収束する。
「すごいです……まるで分身魔法の上位版ですね」
「いえ、分身とは根本的に違います。これは本当に同時に複数の場所に存在しているんです」




