4-1 雷魔法の革新
古書の研究を始めて一週間後、隆は実験室で新たな挑戦を行っていた。今度のターゲットは雷魔法——この世界では風の元素の上位魔法とされているものだ。
「雷の正体は電気放電現象……電子の移動によって生じる」
隆は手のひらに意識を集中した。この世界の魔法師たちは雷を「風の激しい変化」として理解しているが、実際には電荷の移動現象だ。
原子の構造を思い浮かべる。原子核の周りを回る電子、そして電子が一つの原子から別の原子へと移動することで生じる電流。
「電位差を作り出し、電子を強制的に移動させる……」
隆の指先で小さな火花が散った。しかし、従来の雷魔法とは明らかに違っている。より制御されており、精密だった。
「すごいです、田中さん!」
実験を見ていたルナが感嘆の声を上げる。
「これまでの雷魔法は制御が困難で、術者自身が危険にさらされることもありました。でも、あなたの雷は……まるで道具のように扱えますね」
「電気の流れる経路を理解しているからです。電子は常に抵抗の少ない経路を通ろうとする。それをコントロールできれば……」
隆は指先から細い電撃を放ち、部屋の向こうにある金属の棒に正確に当てた。電撃は寸分の狂いもなく目標に届く。
「精密射撃ができるんです。従来の雷魔法のような面制圧ではなく、ピンポイント攻撃が可能です」
「でも、それだけではありませんね?」
ルナの鋭い指摘に、隆は頷いた。
「そうです。電気と磁気は密接に関連している。電流が流れれば磁場が生まれ、磁場が変化すれば電流が誘導される」