3-2 証明実験
学院長室には小さな実験台が用意されていた。隆は緊張しながら実験の準備を始める。
「まず、水の分解から」
隆は水晶の器に清水を注ぎ、手をかざした。水分子の構造を思い浮かべ、結合エネルギーを上回る魔力を注入する。
水面で泡が発生し始めた。二種類の気体が分離される様子を、学院長は無言で観察している。
「この軽い気体が水素、重い気体が酸素です。そして……」
隆は水素に火を近づけた。ポン、という小さな爆発と共に燃焼し、再び水になる。
「H₂ + O₂ → H₂O。水素と酸素が結合して、再び水分子になりました」
学院長は顎に手を当てて考え込んだ。
「興味深い。では、金属の精錬も見せてもらおう」
隆は鉄鉱石を取り出し、還元反応による精錬を実演した。不純物が分離され、純度の高い鉄が現れる様子を見て、学院長の表情が変わった。
「この純度は……通常の錬金術では不可能だ」
「原子レベルで反応を制御しているからです。不要な元素を選択的に分離できるんです」
「元素……君の言う原子の種類のことか?」
「そうです。この世界には100種類以上の元素が存在します。火・水・風・土の四つだけではありません」
隆は簡単な周期表を描いて見せた。水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム……
「これらすべてが異なる性質を持つ原子です。そして、これらの組み合わせでこの世界のすべての物質ができているのです」
学院長は長い間、隆が描いた図表を見つめていた。