3-1 最高権威者との対峙
翌朝、隆は学院長室の重厚な扉の前に立っていた。扉には古代魔法文字で何かが刻まれており、強力な魔法的な威圧感を放っている。
「入りなさい」
中から低い声が響いた。隆は深呼吸をして扉を開ける。
学院長室は想像以上に広く、天井まで届く本棚が壁を埋め尽くしていた。部屋の奥の巨大な机の向こうに、一人の老人が座っている。
アルカディア魔法学院学院長、アルベルト・マグヌス。この国最高の魔法使いの一人と言われる人物だった。白い長い髭を蓄え、深いしわが刻まれた顔には知性と威厳が宿っている。
「田中隆君だね。座りなさい」
学院長の声は静かだが、圧倒的な重みがあった。隆は指定された椅子に座る。
「君の『実験』について聞いている。水を分解し、金属を精錬する。そして、その根拠として『原子』という概念を主張している、と」
「はい……」
「私は70年間魔法を研究してきた。四元素説の完璧さを、身をもって理解している。それに対して君は、たった数日でその理論を覆そうというのかね?」
学院長の瞳が隆を見つめる。その視線には、怒りではなく、深い好奇心が宿っていた。
「学院長、私は四元素説を否定しているわけではありません。ただ、より深いレベルでの理解があるということを示したいのです」
「ほう?」
「四元素説は現象の分類としては優秀です。しかし、なぜその現象が起こるのか、その根本的な仕組みまでは説明できません。原子論は、その『なぜ』を説明できるのです」
学院長は興味深そうに身を乗り出した。
「実際に見せてもらおうか」