【カールの奮闘①(Carl's struggle)】
ワルシャワでサラと別れたカール。
サラからはファーストクラスで悠々移動しても有り余るほどの金を用意してもらったが、悪党の習性で俺は旅客便には乗らず、悪党らしく足のつかない闇ルートを使うことにした。
荷物に紛れ込んで貨物機に乗り込みワルシャワからサウジアラビアに飛び、サウジアラビアで違う貨物機に乗り替えてアフガニスタンのカブールへとその日のうちに移動した。
カブール市内のバーで何杯か酒を呑み、夜にサラが手配してくれていたホテルに入ると部屋にはタテ1メートルくらいの木箱が置かれていた。
木箱を開けると、出てきたのはゴルフバッグのように大きなバッグ。
あて名には“ Saladin”と書かれていた。
この美しい書体はサラに違いない。
“まさかカブールで、ゴルフでもしろと……?”
不審に思いながら中を見てみると、そこにはフィンランド製の狙撃銃SAKO TRG 10 Sniper Weapon Systemセコー社が開発&製造している狙撃銃で折り畳み式の銃床と、マガジン、フロントエンド、およびバレルの交換が可能。
このシステムで様々銃弾や条件下の使用に適応できる超優れものだ!
俺はこのサラからの贈り物に夢中になり、各パーツを交換したりスコープの調整をしたりして、夜遅くまでクリスマスのプレゼントをもらった子供のように遊んだ。
次の日の早朝にザリバンに通じている案内人に同伴してもらい、車でザリバン高原の傍まで行って山に入った。
案内人はザリバンの総帥アサムの親戚筋にあたる人間で顔が利く。
そんな人間に俺が接近で来たのも、闇世界の大物と繋がりがあるおかげ。
今までそのルートを使わなかったのは、万が一俺がサラの下で働いているのがバレた時の用心のため。
サラには闇の世界は似合わないから。
山と言うやつに今まで特に係わりが無かったが、いざ登ってみると厄介な代物だった。
先ず、まともな道は無いし、地図上でたった1キロ進むのに数時間も掛かる時もある。
山を登り始めた1日目の夜には遠くでドーンと言う爆発音が聞こえた。
とうとう始まりやがった。
急がねえとメェナードの旦那が死んじまうかも知れねえ。
まったくアノ男、サラを大切に思うのなら、もっと自分を大切にしやがれ!
戦場が近くなってきたらしく激しい銃撃の音が聞こえだす。
案内人がコノ先にある丘がアジトだと教えてくれた。
最後まで案内してくれるかと聞いたとき、案内人は勿論そのつもりで来たと答えてくれたが、その眼には微かに怯えが見えたので断った。
「ここからは俺一人で行く」
案内人は俺が白人だから仲間に撃たれてしまうと言い、最後まで案内すると言い張ったが銃声を聞いている限り、どう考えても戦場の最終局面。
だから敵も味方も、もう関係はないからと言って断り案内人を帰した。
アジトのある丘の近くまで来たとき、進行方向から近付いて来るオートバイの音が聞こえ、茂みに隠れて狙撃銃を構えた。
スコープで覗いていると、1台のオフロードバイクがコッチに向かって来る。
相手は多国籍軍の兵士。
距離を合わせ、トリガーに指を掛けた。
「So long!(あばよ!)」と小さく口ずさみ、人差し指に力を掛けようとしたとき、バイクに乗っているのが女だと分かった。
背が高く、髪は学生みたいなショートカット。
だが風圧で押されて体に張り付いた衣服の突起は、あきらかにソイツが女性であることを強烈に示しているばかりか、まるでレーサーのフロントカウルのように大きな存在感を示していた。
「スゲー‼」
しばらくその胸に見惚れていたが、スコープを少し上に向けると、顔も好い!
キリっとした中に、どこか幼さが残る超絶美人!
サラみたいに芯が強そうなわりに、情に厚く、時にはその情に流されてしまいそうな弱さを併せ持つ不思議な女。
男みたいなくせに体つきは、女も羨むような最高のプロポーション。
「これだ‼」
銀髪の髪にオッドアイって言うのも、彼女の特異性に似合って神秘的。
トリガーを引けないまま、通り過ぎていく女をスコープで追っていた。
「おおっ!尻も好い。これなら何人でも子供を産めそうだぜ!」
スコープにカメラ機能が付いていたらと悔やんだが、俺の脳にはハッキリとその女の姿は焼きつけられた。
今度どこで会おうが、どんなに髪型や衣服や化粧で誤魔化したとしても、間違いはしねえ!