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【ザリバン高原の戦い④(Battle at Zariban Plateau)】

 丁度アルメニアからアゼルバイジャンに移動中に、高原の東側で新たな戦闘が始まったとの連絡が入っていたが、その後の経過については仕事の邪魔になるので一切考えないことにしていた。

 実の妹の安否に関する情報だと言うのに、気にならなかったばかりか思い出すことも無かった。

 ようやくそのことを思い出したのは、アゼルバイジャン政府高官たちとの会談が終わり空港へ行くために車に乗った時から、カリーニングラードに向けて飛び立った機内から東に広がるカスピ海を眺めていたとき。

 しかし私はそのことに固着せず、カリーニングラードに到着するまでの残りの時間は、脳を休ませるために寝ていた。

 我ながらドライだと思ったけれど、いくら考えたとしても、ココでは埒が明かない。


 カリーニングラードに到着しオフィスに戻るまでの車内でクラウディからの報告に目を通すと戦場は東に移動していて、東端にある1号機の着陸地点と西にある崖から挟み込むように1つの丘を目指すように多国籍軍が激しい戦闘を行っていた。

 おそらくこの丘こそが、ザリバンの本拠地であることを誰かが見つけたのであろう。

 こうなるとザリバンの本拠地に居るかもしれないメェナードさんの安否が気になる。

 また、1号機の部隊には2輌の戦車があるが、崖に居るのは少数のLéMATとSEALsだけ。

 おそらくザリバンは東から攻める部隊には完全に防御戦術を取り時間を稼ぎ、その間に大人数の戦力を動員して少ない西の部隊の殲滅にあたるだろう。

 特に気になるのは連戦になるLéMATと、その応援に来たSEALsには大人数を相手にするだけの弾薬も人数の余裕も無いはずだということ。


 いくらナトーが狙撃の腕がいいと言っても、それはターゲットに当てる能力があると言うだけのこと。

 乱戦になれば余裕が無くなり呼吸も乱れ、必然的に射撃制度も落ちて来るから対応には限界がある。

 そうなると西の部隊は次第に戦線から離脱せざる負えず、防御戦で足止めを食らっていた東の部隊も着弾観測点にもなり得る西の崖からの砲撃に晒される事になるだろう。

 そうなれば、コッチも持たない。

 ザリバン側に付ているメェナードさんの立てた作戦は完璧だ。


 18時。

 仕事を終え、クラウディからの情報に目を通す。

 事態は、にわかには信じ難い方向に動いていた。

 たった数時間前にはザリバン優勢と思われていた状況が一転して、もう既にこの地区の戦闘はほぼ終わっていた。

 丘に作られたザリバンの地下秘密基地は中に潜んでいた司令部ごと自爆し、急遽日本のC-2輸送機を借りて急行したフランス外人部隊が落下傘降下して、残存部隊を掃討しながらザリバンの幹部たちを探していると言う事だった。


 カールは間に合ったのだろうか……そして無事メェナードさんを救出してくれただろうか……。


 後悔が残る。

 アゼルバイジャンからの帰り、何故私はパイロットに戦地であるザリバン高原に向かうよう指示しなかったのか。

 仕事だからと言って、カスピ海の向うに見える乾いた大地を只恨めしそうに眺めていた自分が情けない。


 安全な所で憂いていても、他人に任せていても、大切な人を守ることはできない。

 だからと言って、私が行ったとしていったい何が出来ただろう?

 おそらくPOCの、いや親会社の威光をかざしたとしても決して現地に向かうことは許されなかっただろう。

 せいぜいバグラム空軍基地の司令部にはいり、前線から入って来る情報を聞くことだけが関の山。

 あとは輸送ヘリが運んでくる負傷者や遺体の一つ一つを取り乱しながら確認するだけの只の邪魔者。


 それでもやはり行くべきだったのだろか?

 ここまで考えたとき、私は自身が犯した大きな間違いに気がついた。

 メェナードさんさんがザリバンの幹部としてアフガニスタンに潜伏しているかも知れないと言う情報を掴んだとき、何故自分で行かなかったのか。

 もっと言えば、メェナードさんがザリバンに侵入した際、何故私は彼を止めるために後を追わなかったのか。

 仕事……世界の平和を願うため仕事を優先したと言えば聞こえはいいが、私はその仕事のためにこの世で一番愛する人を見捨ててしまったのだ。


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― 新着の感想 ―
 あの感動的なナトーちゃんたちの戦いは、サラちゃんにはいち情報でしかないんだなあ。  メェナードさん、ちゃんとカールは逢えたのでしょうか。  ラスト一文がとても心抉ります。
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