【ザリバン高原の戦い①(Battle at Zariban Plateau)】
深夜1時にクラウディからバグラム空軍基地から作戦のために飛び立った3機のうち2機が、ザリバン高原で墜落したとの情報が入った。
墜落したのは2番機と3番機。
1機は通信が途絶えたので状況は絶望的だが、もう1機は被弾した旨を基地に連絡しているので生存者がいる可能性もあるとの事。
ただし基地に連絡した1機が、何番機だったのかは不明で1番機だけが目的通りザリバン高原の平坦部に無事着陸したとの事だった。
権威主義のアメリカのことだから、1番機に外国の部隊は乗せないだろう。
そうなると墜落した2番機か3番機にナトーが……。
直ぐに墜落した2機のうち最後まで通信を行っていた1機の詳細を調べるように返信した。
私はクラウディから入る次の情報が来るまで起きたまま待たずに直ぐに寝た。
妹の消息が気になるし心配はしているが全ては結果でしかなく、何が出来るわけでもない。
ドライすぎるかも知れないが、起きていても気苦労が溜まるだけ。
クラウディにもその事を伝え、休むように指示を出した。
放っておいてもロシアの諜報機関が、血まなこになって情報と言うエサを漁るはずだから。
午前8時30分。
墜落した2機のうち、3番機から基地への通信が確認された。
生存者は負傷者を含めて40名余りであることと、おおよその墜落地点を示す座標が暗号で伝えられていた。
バグラム空軍基地から3番機に、負傷者の内訳を問う内容の通信があったが、3番機からの解答は残っていた医薬品と救助迄の時間を考慮して、重度の怪我を負ったものは見捨てた旨回答があった。
14時にクラウディより、ザリバン高原で戦闘があったとの報告があったが、それが作戦地域に着陸できたアメリカ軍の1号機付近なのか、それとも森林地帯に胴体着陸して負傷者を含むたった40人ほどしかいない3号機付近なのかは分からない。
ただ分かるのは、ザリバンが無線発信地を特定するために三角点方式の受信基地を構築していることと、ロシアからザリバンへの情報提供があった疑いがあると言う事。
ナトーのこと、そしてメェナードさんのことが気になって、今すぐにでも現地に飛びたい。
だけど出世して重要なポストを与えられているうえに、POCと言う企業の性質上、戦争に加担することは難しい。
特に今回のザリバンの様に、行く行くは政権を担うかも知れないまでに巨大化した組織に関しては尚更。
いっそ仕事なんて放りだして、なんて非現実的なことは考えない。
POCに居たからこそナトーの所在を掴め、クリーニング品から集めた何千人分と言う毛髪のDNA検査を行うことも出来た。
そしてPOCに居るからこそ、この戦闘の気配をいち早く察知することが出来、クラウディやカールを適正な場所に配置する事前策も取れた。
女一人……いや人一人で現地に行ってどうなる?
良くて、何もできないまま戻って来る。
悪ければ、現地で起こる事件や暴動の餌食になって本会を遂げられないまま死んでしまうだけだ。
リアルな世界は、映画やドラマのようには行かない。
物事とは常に現実的に考えるべき。
POCの幹部として身動きが取れないのなら、POCの幹部と言う地位と能力を最大限利用すればいい。
既に私はロシア政府に情報提供を呼び掛け、クラウディを現地に向かわせているし、カールには直接現場に行くように指示した。
私は、自分に出来得ることは全て実行した。
そう思いながら、その日の仕事に向き合った。
15時にはA-10による航空支援攻撃があったらしい。
A-10による戦果は定かではないが、あと1時間で応援の部隊が到着するらしい。
16時が来るまで、何回時計を見ただろう。
時差はプラス2時間半あるから、応援部隊は情報を受け取った15時の時点では既に到着していると言うのに……。
16時。
ようやくクラウディから連絡が入る。
ザリバンの攻撃を受けていた残存メンバーから、応援部隊へ当初の予定より5キロ以上外側にある地点に降下するように指示があった。
“何故⁉”
山岳地帯で5キロも離れると言う事は、場合によっては5時間以上も到着が遅れると言う事。
“ザリバンの罠?”
その事に気がついた誰かが居たのか?