【アサムとの取引】
「POCの幹部が1人で我々の所に来るとは聞いていたが、どんな屈強な男かと思えば女とは、こりゃあタマゲタ!」
アサムが私の姿をみて驚いてそう言った。
「幹部が女で、何か不都合なことでも?」
私は普通にそう答えたのだが、それが気に入らないらしくヤザが「アサム様の前で失礼な態度は許さん!」と私を睨みつけて厳しく叱責してきたので、私も「最初に仕掛けてきたのはそっちの方だが」と睨み返す。
しばらく睨み合いが続いていたが、それを仲裁するようにアサムが私に「ワシの言葉に失礼があったようでスマナイ」と謝罪した。
ヤザは困った表情でアサムを振り返ったが、アサムはそのヤザに「そうカッカするな」と宥めた。
イスラム教の国は、男社会。
特にイスラム教に忠実な原理主義を取るザリバンなら尚更。
それを考えれば誰か男の使者を向かわせれば良かったのだが、1人で乗り込む度胸と話をまとめる能力を兼ね備えた人物はそう居るものではない。
まして今回の話は、私の個人的なことを含むから。
メェナードさんが居てくれたなら申し分は無かったのだが、もし彼が行くと言ってくれても私はそれを許さなかっただろう。
もうメェナードさんには、危険な目や苦労を掛けたくはないから。
アサムが折れてくれたことで、私もイスラムの文化を尊重しないわけではないが、立場上性別や年齢に先入観を持たれると困る事を告げたあと無礼があった事を謝罪して、バックパックからブルカを取り出して着用した。
「で、大幹部であるサラさんが1人でワシに会いに来た用事とは一体なんだね?」
アサムが用件を尋ねてくれたので、私は「ある女のために、事実を証言して欲しい」と答えた。
「ある女?」
2人は心当たりがあるにも関わらず、その関係が露呈することを恐れてワザと知らない振りをした。
「貴方方を追ったフランス外人部隊のナトー軍曹です。知っているでしょう?」
「ああ、あの軍曹ともう一人の将校を我々は一時拘束したが、その事実の何を証明しろと言うのだ? 彼らは我々の目を盗んでまんまと脱出した。そうではないのか?」
明らかに2人ともナトーを庇っていることが分かった。
そこで私はすぐに彼女へ掛けられた嫌疑を打ち明けた。
つまりナトーが敵前逃亡とスパイ容疑で軍法会議に掛けられているという事を。
これに対して2人は口をつぐんだ。
いや、正確には、口をつぐむしか仕方がなかった。
何故ならナトー軍曹は、今回の戦闘での多国籍軍側の功労者。
敵の功労者はザリバンにとって憎むべき相手のはず。
その相手が軍法会議でどうなろうが関係ない。
言うなれば「ざまあ」だ。
だが彼らの真意は違う。
血のつながりは無いもののナトーはヤザの一人娘であり、ザリバンがイラクで苦戦していたときに伝説の狙撃手グリムリーパーとして多国籍軍に屈しない姿勢を明かしてくれた英雄だ。
しかしそのことはナトーの将来のことを考えると、決して明かせない。
お尋ね者のグリムリーパーが、事も有ろうかフランス外人部隊に潜んでいたとなれば、とんでもない問題になるのは避けられない。
そこで私はある提案をした。
それは我々の工作部隊を協力させて、アサムが望む通りのザリバンの未来づくりを支援すると。
この提案にアサムは驚いて言った「我々の未来づくりを応援するとは異なことを言う」と。
私は彼の意を察して、囁くように言った。
「では何故、部外者である黒覆面の男を本部に呼んだ。そして何故、彼の好きなようにさせた?」 そしてヤザにも、何故黒覆面の男の指示に従ったのかと。
メェナードさんの捜索を通じて私は様々な情報を集めることが出来た。
黒覆面の男に成りすましたメェナードさんが、何をしようとしていたのか、そしてアサムが何を期待して黒覆面の男をアフガニスタンの本部に呼んだのかも。
全ての真実を知っている事を打ち明けて協力することを申し出ると、アサムもおとなしく私の申し出を受けた。




