【ザリバン高原での戦闘の知らせ①(News of the Battle at Zariban Plateau)】
「サラ! 空港で不穏な動きが有ります‼」
パリに派遣していたクラウディから連絡が入った。
ここ数日中にアフガニスタンで大規模な軍事作戦が行われる気配を感じていた私は、彼女に命じてパリ近郊にある軍の飛行場を監視させていた。
クラウディ―はフランス軍の空港に待機していたC-130輸送機に燃料が満タンまで入れられていた事と、物資の搬入体制にあることが戦闘の予兆ではないかと報告をしてきた。
「どこの部隊の隊員たちが待機しているのだ?」
「それが隊員はまだ誰も。だからコレは尋常ではないかと」
クラウディ―の推理は正しい。
航空機への燃料の給油や物資の搬入はよくあることだが、その給油時間や搬入物まで注意して見ないとナカナカどのような行動を起こすつもりかなどは分からない。
ただし人員は違う。
どの部隊の兵隊が、どの様な規模と装備で搭乗するかで作戦の質はハッキリと分かる。
新兵を中心に搭乗させるのであれば訓練。
空挺部隊が日中の早い時間に搭乗する場合も訓練の可能性が高いが、この段階で兵隊が空港に来ていないと言う事が腑に落ちない。
時計はもう15時を示しているから、訓練にしては準備を始める時間が遅すぎる。
C-130はおそらく日中には飛び立たない。
兵員を乗せるのはおそらく人目を避けるため夜中になるだろう。
とうとう始まるのか。
予想はしていたが、まさかこんなに早く来るとは思ってもいなかった。
戦場はアフガニスタンの何処か。
そうなればフランス軍から1番手として派遣されるのは外人部隊だろう。
ナトーも戦地に赴くのだろうか?
彼女が外人部隊に居ることはカールと一緒に外人部隊に出入りしているクリーニング業者の洗濯物を盗んで、採取した髪の毛のDNA検査で既に分かっている。
パリのテロ事件を阻止した経緯から、おそらく新設された特殊部隊LéMATの隊員であることも。
だがLéMATの隊員であることが、その後の調査の妨げになっている。
何故なら特殊部隊の隊員は何処の国でもトップシークレット扱いになっていて、紙媒体とか口頭と言った旧時代の伝達方法を採っているところもあるからそう易々と調査できない。
特に外人部隊の様に小さな組織の中では、口頭と言う形式でも不自由はしないはず。
クラウディに外人部隊の動向を探るように指示し、もし彼らが夜中に空港へ向けて人員を輸送する行動に出れば、直ぐにロシアに飛んで状況を調べるように指示して電話を切った。
我々の組織POCは簡単に言えば武器商人。
そして親会社は、各国の国営銀行を牛耳っている。
アメリカを叩いても、おそらくは当分何も出てこない。
おそらく親会社の伝手を使っても、様々な理由を着けて時間を取られるだけ。
だがロシアの立場はまるっきりの、第三者。
しかも発展途上国向けに安くするためにスペックを落として作った兵器の売買には我々POCが手を貸しているし、親会社はロシア産の石油や天然ガスをEU諸国に売り込む手助けを行っているから、たとえロシアの大統領も断ることはできないだろう。
アフガニスタンで起こる事なら、ロシアの諜報機関も電波を傍受して状況を調べているはず。
それにアメリカを中心にした作戦なら、ロシアからザリバンに向けての武器の密輸も考えられる。
だからクラウディをロシアに向かわせた。
クラウディは賢いし、以前メェナードさんの消息を追ってアフガニスタンに向かわせたとき、現地でロシア軍特殊部隊の大佐と面識があったから何とかするだろう。
秘書室に連絡して16時以降から明日の午前中までの予定を全てキャンセルすることと、17時にプライベートジェットでワルシャワに向かうことやワルシャワのホテルとレストランの予約、そしてソコに居るもう1人の用心棒に直ぐココに来るように伝えた。
電話を切ると直ぐにそのもう1人の用心棒、カールがドアをノックしてオフィスに入って来た。
案の定、彼は秘書課で暇をつぶしていた。
カールはメェナードさんが私のために雇ってくれたボディーガード兼運転手だが、元は狙撃を得意とする殺し屋。
銃と格闘戦は得意だが、事務仕事にはてんで向かない。
そして殺し屋とは思えないほど、のんびりした性格の癒し系で、性格も女好きの“エロおやじ”の部分を除けばとても殺し屋をしていたとは思えないほどの人格者だ。
「なんか用ですか?」
「早いな。またソニにへばりついていたのか?」
ソニとは秘書課の若い電話係のソニチュカのこと。
「よくご存じで」
「言っておくが彼女には、お前より若くてハンサムなボーイフレンドが居るんだぞ。どうあがいても落とせやしない」
「落とすなんて考えちゃいませんよ」
「じゃあ何で、時間を割く?」
「優先順位の高い、楽しい時間を過ごせるから。それだけです」
「相変わらず、美人が好きだな」
「ええ俺は美人には目がねえのは認めます。だがソニが1番なわけじゃねえ。彼女はせいぜいベスト10に入るか入らねえかってところです」
「?……1番は誰だ?」
「サラ、アンタが1番だから俺はここに居る」
「……」
カールは時々ドキッとさせることでも平気で言う。
それが本心なのか揶揄っているのかは定かではないが、そういうのはチョッと困る。
「お、お前を呼んだのは他でもない。旅の支度をしてもらう」
「旅? 何日くらいの?」
「わからない」
「ホテルは?」
「野宿も覚悟していて欲しいが、詳細は後で伝える。これから社を退けて準備をして17時までに戻ってこい」
「りょうかい」
「遅刻は許さないぞ」
「イエッサー!」
カールはヘンテコな敬礼をして部屋を出て行った。
明日(5月11日日曜日)にも1話投稿します。
その後は毎週日曜日の不定時間での投稿になります(^▽^)/