【アサムの元へ】
ザリバンの首領アサム・シン・レウエルの居場所は掴めた。
更にダニエルの計らいで、彼との連絡手段や複数の携帯電話の番号も教えてもらった。
CIAなど足元にも及ばない情報収集力は、さすがに世界中の中央銀行を傘下に置く一族が手掛ける組織だけのことはある。
「サラ、行くなよ。そのために携帯電話の番号を教えたんだからな」
ダニエルが私を心配して忠告してくれた。
「相変わらず、甘いわね。私が文通や携帯電話で済ませるとでも思っているの?」
「思っていないが、命を懸けることになるぞ」
「上等よ。それだけの価値があるものにしてくるつもりだから」
「いったい何をしに行くつもりなんだ?」
「ザリバンにテロを止めさせ、国内の治安維持に務めさせるだけの事よ」
ダニエルは口をポカンと開けたまま、持っていた自分の書類を床に落としてしまった。
*
イギリスからプライベートジェットで、すぐにアサムの居るアフガニスタンに向かった。
私の専用機ダッソー ファルコン 2000EX EASyは航続距離5,700キロもあるが、アンカレッジで一旦給油してからアフガニスタンのバグラム空軍基地に向かった。
バグラムに待機していたアフガニスタン支部の車に乗りアサムの館を目指す。
車は3台で私は真ん中の車に乗った。
前後の2台は、私の護衛。
一見すると農夫や羊飼いに見えるが、その眼つきは尋常ではない。
そして彼らは常に通り過ぎる私たちを見張っていた。
アサムの館が近付くにつれて、不穏な空気が漂って来る。
突然現れ車列を塞いで止まるトラックや、尾行するように着いて来るオートバイ。
スタッフたちがビビっているのが良く分かる。
私は車列を止めさせて車から降りた。
奴らは決して自ら近寄っては来ない。
車から降りた私は、運転手を車から追い出し、同乗者全員をこの車から他の車に乗ってカブールに帰るように命令する。
彼らに私の命令を拒否する権限はない。
何故なら彼らに直接私の護衛を指示したのは、一介のアフガニスタン駐在課長で、私はCMO(会社のマーケティング戦略を統括する役職、Chief Marketing Officer)権限を持つ部長だから。
彼らが2台の車に便乗して来た道を戻るのとは反対に、私は前に進む。
おそらくこのまま住所の通りに進んでも、アサムとは会えないだろう。
だから私は、一人になった。
案の定すぐに私の前にピックアップトラックが割り込んできた。
荷台にはAK47をワザと私に見せるように持った兵士が、私を睨んでいた。
道案内が来たので、私は気を楽にしてついて行くことにした。
しばらく着いて行くと、車は館のあるはずの街を過ぎ、主要道から外れた小さな村の奥にある炭焼き小屋の下の道で止まった。
あの小屋にアサムが居る。
私は武器の所持をチェックされたあと、前後に銃を持った男に案内され、炭焼き小屋のある細い坂道を登った。
炭焼き小屋の扉代わりに吊るされている蓆を潜ると、そこには2人の男が私を待っていた。
一人はアサム。
もう一人の男はヤザ。




