【1通の封書】
カリーニングラードのオフィスに居ても、欧州の訪問国の何処に行ってもナトーとカール、そしてメェナードさんの事が気になっていた。
辛いのは彼らの安否が分からない事だけではなく、仕事の支障がないようにその感情を封印しておかなければならないこと。
フィンランドでの仕事が終わりカリーニングラードのオフィスに戻る途中の車内で、アフガニスタンのザリバン高原での死闘が多国籍軍側の勝利で幕を閉じたことがニュースで流れていた。
当然公共の電波を使うニュースだから、ナトーたちの消息については伝えられていない。
私はそれをとても悔しく思った。
兵士たちの家族にとっては勝った負けたではなく、戦闘が終わった事でもなく、もっとも重要なことは兵士として現地に向かった家族の安否なのだ。
ザリバン高原の戦闘が終わってから5日後、会社の郵便受けに不審な郵便物が紛れ込んでいることで少し騒ぎになった。
仕事柄、テロの標的となることも考えて、日常的に郵便物の管理は行っている。
X線による内容物の検査は勿論だが、差出人の素性などもその際に調べられる。
今回の騒動は、私宛の郵便物に所定の切手とは全く異なる安い切手が消印を押されていないまま送られてきていることと、差出人の住所がこの近所にある酒屋になっていると言う点。
通常この様に素性の怪しい郵便物は開封されずに廃棄されるが、秘書のソニから騒動を聞いた私は先ず郵便受けの前にある監視カメラの画像の確認を行った。
画像には明らかに配達員の恰好をした男が、配達用のオートバイに乗って監視カメラの前で郵便物の束を無造作に郵便受けに入れている映像が映し出された。
監視カメラの位置を知っていてソレに映るのを警戒しているのか、帽子のつばを深く被り黒いサングラスをかけた顔も下を向いたままで、おまけに日本人みたいにマスクまでしていた。
隣で一緒に見ていたソニたちは、誰だか分からないとか怪しいとか言っていたが、私はそんな格好までして郵便物を届けに来てくれた彼の行動が可笑しくて心が熱くなった。
そして彼は作業を終えて立ち去る間際に、ホンの少しだけサングラスをずらして見せた時には、笑いを堪えるのに苦労するほどお腹が痛かった。
“カールだ!”
彼は変装した自分の姿に私が気付かないかも知れないと思い、心配して最後にサングラスをずらしたのだ。
元殺し屋のくせに、相変わらず気配りが利く彼らしい行為。
「いただくわ!」
規則に反して私は郵便物を取った。
この封書には、メェナードの事が書かれているに違いない。
そう思うと早く開けたくて、急いでオフィスに戻り開封した。
ハガキの中には1枚の写真が入っていた。
それはアフガニスタンのカブール空港で、搭乗手続きをしているメェナードさんの写真。
おそらく嫌がるメェナードさんに隠れて、盗み撮りしたのだろうがカウンターのアクリルボードに映るメェナードさんの眼は確実にカメラ目線になっていた。
さすがメェナードさん。
カールの魂胆なんて、とっくにお見通し。
写真を撮られたことも撮った目的も分かっていながら、この写真が届いたと言う事は私にもまだ脈がある証拠と思って構わないのよね、メェナードさん!




