【メェナードの告白②(Maynard's confession)】
メェナードはグリムリーパーの正体を探るためにココに来て、グリムリーパーを誘き出し抹殺するために戦った。
しかしグリムリーパーを殺すことは出来なかった。
殺す機会は幾度もあった。
不時着した輸送機に立て籠もる多国籍軍の中に、ナトーが居ることを察知した時に直ぐにヤザを差し向けて部隊の指揮をとらせた。
ヤザの傍には彼がグリムリーパーと呼ぶ狙撃手が居たが、僕はそいつが“もどき”であることを感じていた。
何故なら今までグリムリーパーの正体を頑なに隠していた彼が、こんなにもアッサリとその正体を開かすはずがないし、そのグリムリーパーと呼ばれる男にも神秘的な何かを感じ取れることはなかったから。
こいつはただの腕のいいスナイパーに違いない。
ただし仮にナトーがグリムリーパーだったとして、彼がこの戦いに負けるとは思えなかった。
ナトーは不時着した輸送機から一歩も出られない状況で、攻撃する側は森に広く彼女たちを囲んでいる。
更にコッチはその輸送機に凄腕のスナイパーが居ることを知っているが、ナトーは我々の方にスナイパーが居ることを知らない。
スナイパー同士の戦いは、相手を先に見つけたほうが圧倒的に有利だから。
サラには悪いが、限りなく黒に近いナトーの運命をヤザに託すことにした。
しかし、そのヤザは何故かナトーを仕留められないまま、逆にナトーのために“もどき”を失った。
不時着地点から一歩も外に出られないように部隊を配置させたが、ナトーたちは少人数にも拘らずその網を抜けアジトの傍にある崖の所まで来た。
ナトーはここでも天才的な思考能力を発揮して、僕の仕掛けたトリックに気付いたばかりでなく、秘密裏に解除するのは不可能とタカをくくっていた出城のタコツボに仕掛けていた爆弾を全て取り除き、逆にその出城を自らの出城にした。
このタコツボの爆弾は、実は簡単に解除することも出来る。
それは何か大きなものをタコツボの穴に投げれば、全ての爆弾が爆発する。
しかしその場合、仕掛けてある爆弾の向きからタコツボのコッチ側、つまりアジト側にある凹んだ部分だけが崩れてしまい敵に利用されないようになっている。
要するにタコツボを再び使う場合、我々の方は防御拠点として使えるが、敵には使わせない構造となっているのだ。
出城のタコツボがナカナカ爆発しないことに業を煮やしていたのは僕だけでなく、ヤザもまた同じ気持ちでイライラとして僕に偵察を出すように何度も言って来た。
だが僕はいいかげんな返事を繰り返して、偵察を出すことを拒んでいた。
もしもナトーが爆弾の処理をしていたと思うと、そのようなことをする自分が許せなかったから。
おそらくヤザも同じ気持ちだったのだろう、普段なら僕の言うことも聞かずに勝手なことばかりしている彼がイチイチ僕の指示を仰いでは、出来ない理由を求めていた。
こうして僕たちはグリムリーパーであるナトーを殺せないまま負けた。
最後にメェナードは言った。
死神は、人を殺しに来るのではなく、死ぬ運命にある人の魂を迎えに来る神で、人間は決して彼を殺すことは出来ない事を。
たしかにナトーはこの戦場で数えきれないほどのザリバン兵を殺したが、彼女が殺さなくてもこの場所から動くことの出来なかったザリバン兵たちも時間は掛るが必ず多国籍軍によって殺されていただろう。
俺もようやく気付いた。
あのオートバイに乗っていた、女がそのグリムリーパーであるナトーだったことを。
そして俺もまた、トリガーさえ引けば簡単に殺せたはずのナトーを殺せなかったことを。
「あっ、そうそう、これを。 大切な物なんだろう?」
最後にメェナードが、長い袋を俺の前に出した。
サラに貰った狙撃銃が入った袋。
「失神した俺を担いだまま、こんなに重い物まで⁉」
「中に、サラが書いた宛先が残してあったからな」
メェナードは、その時になりようやく優しく笑った。
「ありがてぇ~~~‼」
俺はサラに貰った狙撃銃の入った袋を抱きしめて、オイオイと泣いてしまった。