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真実の愛を応援してあげたら、破滅してしまいました

作者: ひよこ1号

幼い頃に結ばれた公爵令嬢と侯爵令息の婚約は、もう10年目に差し掛かっていた。

学園に通う子女の多くは卒業と共に、婚約相手と婚姻を結ぶ。

昨今は王家に合わせて子供を作る事が多く、従って次期後継者も同年代である事も多い。

中には金銭的な問題や家格の問題で、歳が離れた組み合わせになる事もあるが、二人は違った。


美しい金の髪に、深い青の瞳を持つ公爵令嬢のアドリアーヌは、母が王妹である。

ゆえに、王子達とも従兄妹同士であり、今更婚約という間柄でもなかった。

血が近すぎるのも問題なので、除外されたのである。

とはいえ血縁者としては仲も良く、低いけれど王位継承権も持っていた。


眩い銀の髪に、若葉色の緑を瞳に宿す侯爵令息バルサンは、歴史の古い名家の次期当主となる。

この婚約は、両家の約束事であり、王家を取り巻く貴族の派閥を固める為の物でもあった。

幼い頃に会わせられて以来、二人の意思というものは関係なかったのである。


だが、貴族と優秀な平民が集う学園という小さな世界では、新しい異性との出会いがあり、自立心を芽生えさせた少年少女がその箍を外してしまう場所でもあった。

貴族としての厳しい教育を受けてなお、必ずと言って良いほど暴走する者がいる。

アドリアーヌも、その覚悟はしていた。

君に大事な話があるんだ、と言われた時から凡そ予想はついていた。


「好きな女性がいる」


「存じております」


バルサンの告白に、顔色も変えずにアドリアーヌは頷いた。

そして紅茶を一口含んで、控えめな笑顔を浮かべる。


さて、どうしようかしら?


子爵令嬢との噂を耳にしてから、公爵家の伝手を使ってきちんと調査も入れていた。

コラリーというその令嬢は、物語に出てくるような平民の出ではない。

淑女教育を受けている筈の、れっきとした貴族だ。

他国と何か関係が?とも思ったが、そういった裏事情も無い相手である。

ただ、家庭環境が少しばかり複雑だった。

優秀で地味な姉達と、可愛らしいだけの妹。

その下に待望の跡継ぎである末っ子長男。

上二人は粗末に扱われた故に、さっさと独り立ちして文官と医師として王城に勤める位には勤勉で優秀である。

弟や妹の為に働くという建前で王城に勤務していたが、成人して親の管理が不要になれば他国へ渡るだろう。

二人の姉の犠牲の上に成り立ってきたコラリーの幸せ。

だが、その新しい寄生先が目の前の侯爵令息バルサンである。


長年共に過ごしてきたバルサンが何と言うのか興味を惹かれて、アドリアーヌは会話の主導権を握らずにただ穏やかな微笑みを浮かべている。

居心地が悪そうに、形の良い眉を顰めて目を逸らすバルサンが言うには。


「彼女を、愛人として迎えたい」


「まあ、妻にしたい、と仰るのかと思っておりましたわ」


にこにこと微笑むアドリアーヌを不気味な物でも見るかのようにバルサンが見つめた。

流石に恋に落ちてしまったにしても、この両家の約定の元結ばれた婚姻を反故にする覚悟もなかったのだろう。

更に言えば、平民になってでも添い遂げる覚悟も。

そんな適当な気持ちで、婚姻を汚されるのは気分が悪い。

高位貴族としては間違ってはいない。

妻として夫人として務まるのは、高位貴族の淑女教育を受けた者だけである。

しかし、値しない人間を妻に迎えないのだからといって、いきなり愛人を抱えると堂々と言われても。

未来の妻の気持ちを考えないという無神経さに腹が立つ。

その女性を愛人として迎える利点を、アドリアーヌに提示できるのなら認めない事も無いのだが、調査段階でとくに利点になりそうな要素は無かった。

彼の恋情と下半身の問題でしかない。


バルサンが苦々しく言った。


「出来ないのは君も分かっている筈だ」


「ええ。でも婚姻前から既に愛人を迎えると宣言されるなんて。彼女は承諾しておりますのよね?でも問題が起きなくて?このお屋敷に住まわせるのでしょう?」


受け入れる前提での話になったと、バルサンの顔が笑みで彩られた。


「ああ、いや。君が嫌なら別宅を持たせるよ。妻である君を困らせたくはない」


「そう。でもそこまでバルサン様に個人資産はございましたっけ?そのような用途に公爵家からの資金は使えませんわ」


アドリアーヌが首を傾げると、バルサンは顔を引きつらせた。

二人の婚約は派閥の問題もあるが、莫大な富を持つ公爵家が斜陽の侯爵家を援助する為でもある。

既に優秀な公爵家の家人たちが、侯爵領にも配置されて少しずつ立て直して、今や普通に利益は出ているが、愛人を囲って散財できるほどではない。

いまだ、国からの俸給と領地の税金で、日々の貴族として体面を保てる生活、がやっとなのである。

それは食べ物や使用人の給金に使われるものであり、嗜好品にはそこまで金が回らない。

アドリアーヌに贈るドレス代ですら、バルサンの実家には用意出来ないのだ。

質の悪い物を贈られても困るという公爵家の矜持もあるのだが。

だからこそ、一線を越えない限りは、と目溢ししてきたのだ。

一線というのは別に肉体関係ではない。

それよりも、公爵家を軽んじ、婚約者の領分に踏み入る行為である。

今まで一度も夜会の同行エスコートで恋人を優先された事もなければ、公爵令嬢に相応しくない贈り物をされた事もない。

約束は何時だってきちんと守られて来た。

だから、アドリアーヌに贈られるドレスや宝飾品の端数程度のはした金を使って、コラリーへ細やかな贈物をするくらいは別に気にしなかった。

寧ろ肉体関係の方は、基本的に貴族の子弟は性行為を学ばせるために高級な娼館を利用する事が多い。

王族ともなれば専用の家庭教師が宛がわれる事もあるが。

だからこそ、恋愛物語においての浮気などという可愛い感覚はこの国の貴族の間にはない。

寧ろ、家同士の信頼関係を崩しかねないから浮気が許されないだけだ。


アドリアーヌにとってコラリーは病気を持たないバルサン専用の娼婦である。

それが、とうとう。

彼が注意深く隠しながら、結婚後に秘密の逢瀬を楽しむ程度であればまだ許したかもしれない。

だが、堂々と認めるように話をしてくるなんて、どうかしている。

普通の貴族令嬢ならまだしも、アドリアーヌは王族に連なる者としての矜持もあるのだ。

それに、愛人を持つには圧倒的に経済力が足りていない。

学生の内に人脈を広げて事業を興す者もいる。

それだけの度量と、隠し切る配慮があればこれもまた問題は無い。

バルサンは楽をしつつ、自分を気持ち良くする道具を手に入れたいだけなのだ。


「……そうか、だったら、この家に迎えるしかない」


そう言えば、泣きながら此処を出て行くと思っているのか、それとも慎ましやかに受け入れると思っているのか。

何とも傲慢な一面がバルサンにあるという事を、アドリアーヌはこの年齢になるまで気づけなかった。


「左様でございますか。このことは侯爵様と夫人はご存知でらして?」


「そんな訳、ないだろう」


それは婚約者だから優先した、なのか、親には言うな、なのか分かり兼ねたので、アドリアーヌは首を傾げた。


「でしたら、両家の親も交えてお話し合いを致しましょう」


「これは、私と君の問題だ」


「いいえ、家同士の婚姻に付随する事ですから、まずは両親を説得なさってくださいまし」


「もういいっ!」


本当に珍しく、バルサンが声を荒げてテーブルを叩いた。

おかげで、載せられていた食器類が音を立てて跳ねる。

彼の中では今、廃嫡の二文字が不安を駆り立てているのだろう事は想像がつく。

だが、口から出てしまった言葉を元に戻す事は出来ない。


「どういう事でしょう?」


「底意地の悪い女だな、君は。嫌なら嫌と最初から言えばいいものを!みっともなく愛を乞うならまだ可愛げがある。なのにこんな……!」


流石にアドリアーヌもその言葉に、貼り付けていた笑みを消した。

ハッとしたバルサンが、取り繕うように言い訳を開始する。


「済まない。私がどうかしていたようだ。この件は忘れてくれ」


「……いいえ、わたくしも貴方がこれからの人生幸せであるよう、今少し考えてみたいと思いますわ」


目を伏せて言えば、バルサンはほっとしたような顔をして微笑む。

今の暮らしを失くさずに済んだ安堵か、それとも愛人と優雅な暮らしの両立が成ると思ったか。


これだけ足蹴にされて許されるとでも思っているのかしら?

だとしたら、とんだ間抜けだったのね。


アドリアーヌはしおらしい淑女の仮面を保ったまま、侯爵家を後にしたのだった。



それから一週間後、両家合わせての話し合いが行われた。

二人きりの茶会の後、アドリアーヌはバルサンと行動するのを一切止めていたのである。

何かに誘われても、考え事がございまして…などとはぐらかし続け、今目の前にいるバルサンの顔色は悪い。

アドリアーヌの両親である公爵夫妻は厳しい顔をしていて、対照的に侯爵夫妻はにこにこと愛想笑いを浮かべている。

バルサンから話を一切聞いていないのが見てとれた。


「結婚後の生活についてバルサン殿からアドリアーヌに提案があったらしいのだが、侯爵殿は何かお聞き及びかな?」


鹿爪らしい顔と声で公爵に問いかけられて、はははと和ますように侯爵は笑った。


「いやいや、新婚の二人ですからな。二人に万事任せる心算でおりますぞ」


公爵夫人はぱちりと扇を閉じながら冷たい声音で言う。


「それは、この屋敷に一緒に愛人を住まわせることを許可した、と受け取っても宜しくて?」


「は?」


間抜けな顔で侯爵がぱかりと口を開けた。

公爵夫妻の目線が厳しいのを見て、それから蒼褪めたバルサンを見る。


「愛人?……バルサン、まさかお前、そんな事を要求したのか?」


「いえ、その。本気で言った訳ではなく、流行りに乗ったのです!……昨今、その、婚約者がどこまで寛容か試すという遊びが流行っておりまして……誠にお恥ずかしながら、冗談にしても行き過ぎた事を申しました」


そういう事にしたのね、と思わず頬が緩みそうになるが、許す訳がない。

まだ愛人の話は良かった。

選ぶ余地を与えておいて、何を話すのか聞きたかったから。

勿論アドリアーヌが会話の主導権を握って、穏やかに婉曲的に諦めさせる方法だってあった。

だが、会話の途中で彼はアドリアーヌを軽んじて罵倒したのだ。


底意地の悪い女、だけならそれもまだ笑って許そう。

貴族の女性にとっては、ある意味誉め言葉でもある。

そう受け取る位の寛容さは持ち合わせていた。


だが、「みっともなく愛を乞え」と言われたのは堪えがたい屈辱だった。

王家の血を受け継ぐ人間を、その辺に居る娼婦と同列に扱ったのだ。


バルサンの必死の言い訳に、公爵夫妻はぴくりとも反応しない。

その様子に侯爵が慌てて言い繕う。


「若い者にありがちな事とはいえ、躾が行き届かなかった事は幾重にもお詫び申し上げます」


同じように笑って誤魔化そうとするならば、両親は侯爵相手にも何らかの手を打っただろう。

が、侯爵は笑みを引っ込めて、真摯な顔で頭を下げた。

夫人も揃って、頭を深く垂れる。

アドリアーヌは悲しそうに目を伏せながら言った。


「流行でしたらば、笑って許しもしましょうが、実際に浮名を流しておられたのは、侯爵様もご存知では?」


「面目も無い。必ずアドリアーヌ嬢を優先し、火遊び程度の女とは卒業までに切れるようにと厳命していたのですが」


「ええ、そうですとも。子爵家程度の娘がうちに一歩でも入るなんて、ああ、汚らわしいこと」


アドリアーヌの疑問に侯爵が答え、さらに夫人が眉を顰めて俯いている息子を睨んだ。

知らぬ存ぜぬは通じない事を、分かっている相手でまだ良かった。

息子の恋人の情報すら把握していないようでは侯爵家の当主は務まらない。

でも、このまま結婚してもアドリアーヌの溜飲は下がらない。

伏せていた目をあげて、アドリアーヌは穏やかに微笑みを浮かべた。


「でも、わたくし感動いたしました。ご自分を窮地に陥れてまで、愛する方と結ばれたいというのであれば、わたくし、それを受け入れる覚悟が出来ましたの」


「えっ?」


驚いたのは侯爵夫妻で、バルサンは信じられないというように顔を上げた。


「先日はバルサン様の思いもよらない提案と、罵倒に心を痛めました。けれど、真実の愛を証明して下さるならば、お二人の生活を認めたいと思いますの。卒業と同時に三年間。お二人の力だけで市井で夫婦としてお過ごしください。わたくしに覚悟を強いたのですもの。お二人の愛が本物か、その覚悟をお見せくださいませ」


「ああ、分かった。必ずやり遂げてみせよう」


すぐに認めてくれたバルサンにアドリアーヌは華やかな笑みを零した。

元々断らせないつもりではあったのだが、簡単に了承して貰えるのなら是非もない。

侯爵は難しい顔をし、夫人はほっと溜息を吐く。

少なくとも、有責扱いの婚約破棄による莫大な慰謝料の請求は免れたからだ。


でもこれはただの余興である。


更に数日後、侯爵夫妻と公爵夫妻は書面を交わした。

侯爵家の責は問わず、慰謝料も発生しない、交わした条件に侯爵夫妻はほっと笑顔を浮かべたのである。




定番の卒業間際の婚約解消、などという事にはならず、それでも学園でのバルサンとコラリーは公然と恋人同士のようにぴったり寄り添っていた。

周囲の友人には心配されたが、アドリアーヌも同じように笑顔で過ごして卒業の日を迎えたのである。

二人には王都の外れに、小さな家が与えられた。

平均的な夫婦の家で、広さは侯爵家どころか子爵家の納屋と変らない大きさに、二階が付いている。

一階には生活に必要な全てが揃っていたが、風呂などは無い。


「ねえ、使用人はいないのかしら?」


トランク1つのみしか荷物は許されず、コラリーはお気に入りの宝石類とドレスだけを詰め込んできた。

だが、荷解きをする侍女はいない。


「うん。雇ってしまうとお金が減るからね。最初に許された費用は一か月分の家賃と食糧費だけだから、仕事を探さないとな」


のんびりとバルサンも答える。

こちらも大きなトランクに服と荷物を詰め込んで来たが、事前の情報で平民の友人から話は聞いていた。

あんまり綺麗な服を着ていると強盗にあったり、誘拐されたりするのだと。


だから、庶民が着る様な服を事前に用意して貰ったのだ。


「コラリーもこっちに着替えて」


「わたくし、一人で着替えなんてしたことなくてよ?」


「しょうがないなぁ。私が手伝ってあげるよ」


2カ月も前に言ってあったのに、と思いはしたが、そういう手のかかる所もバルサンは嫌いではなかった。

みすぼらしい服をお互いに着て、くすくすと笑い合う。


これはこれで楽しい生活だと、その日はそう思っていたのだ。


寝心地の悪い狭くて硬い寝台ベッドに二人で横たわり寝たまでは良かった。

だが、起きた時の気分は最悪だったのである。

目に飛び込んできたのは粗末な天井、身体も何だか固く強張ったままのようで、不快だった。

誰も起こしにはこないし、洗面用の湯も無い。

階下に降りれば、昨日と変らぬ部屋。

当然、朝食だって無い。


ふう、とため息を吐いてバルサンは二階へと上がった。


「コラリー、さあ起きてくれ」


「んん、なぁにぃ……まだ寝かせて……」


「朝食を作ってくれないか?」


その言葉を聞いて、はた、と現実に引き戻されたコラリーが飛び起きた。

周囲を見て、どんよりとその目が曇る。


「無理ですわ。わたくし、料理なんてした事がないもの」


「料理は妻の仕事だよ。それとも外に働きに出るかい?」


2カ月前に話した時には、料理を覚えておくなどと調子の良い事を言っていたのに。

もしもアドリアーヌなら、決して約束した事を破ったりはしないだろう。

バルサンの言葉に、コラリーは泣き始めた。


「酷いですわ、バル。無理だと分かっていてそんな事を仰るなんて」


「仕方がない。今日は外で買う事にしよう」


市場へと行けば、騒々しく人々が行き交い、色鮮やかな野菜や果物が売られている。

屋台もあって、すぐに食べられる料理も売っていた。

鼻を擽る良い匂いに釣られて買い、二人は家でそれを平らげる。


「楽しかったですわね」


などと暢気な笑顔を浮かべるコラリーは可愛らしいが、計画性のなさにため息が漏れる。

家の中だというのに埃っぽくて窮屈で、侯爵家での暮らしがもうずいぶん昔のように思えた。

この時にはもう、破綻は見えていたのだ。

分かりたくなかっただけで。



「もう実家に泣きついたようですよ」


そう告げる声にアドリアーヌが顔を上げれば、バルサンの弟シリルが微笑む。


「あら、早かったですわね。まだ三か月も経っていないのに。鞄一杯お金になりそうな物を詰め込んでいたのは可哀想だから目溢しして差し上げましたわよ?」


シリルの手にあった報告書を渡されて、あらあら、とアドリアーヌは苦笑した。


「穏やかで優しい人だと思っていたけれど、人徳がなかったのかしら?」


「無意識に人は自分を偽って装うところがありますからね。大方目下の者には傲慢な態度をとってきたのでしょう」


「そう……残念な方。ご実家の方ではどうされて?」


「書面で交わした約定通り、門前払いです。ですから、今日あたりこちらにも来るかもしれませんね」


窓の外に目を遣るシリルが、遠くを見る眼差しになる。

屋敷から見えるようなところに門は無いので、訪ねて来たとしても屋敷からは分からない。

それに、実家で駄目だったのだから、公爵家の門と屈強な門番達を見ただけで帰るだろう。

帰らなかったとしても、同じく門前払いだ。


「それより勉強は順調でして?」


「はい。元々兄上には体よく押し付けられたりしていたので、実務の方は問題なく」


それを聞いて、アドリアーヌはため息を吐く。

結局、自分にも見る目がなかったのだ、と。

シリルが指摘したように目下や格下認定をした相手には、傲慢だったのだろう。

最後の茶会で見せた、あの罵倒をする姿こそが、本性だったのだ。

何れ妻になるから、自分より下なのだと無意識に判断しての行動。

新しく婚約を結び直したシリルは、兄と同じ色を宿した端正な顔に笑顔を浮かべる。


「結婚までには、全て学び終えますから、待っていて下さい」


「ええ、期待しているわ」




三年後、彼らは戻ってこなかった。

古物商に知り合いでも居れば、宝飾品を売ったお金で悠々自適に暮らしていけただろう。

だが、友人に頼んでしまった。

その友人がいつからバルサンを憎んでいたのかは分からない。

憎んですらいなくて、ただの金蔓だった可能性もあるが、とにかく愛し合う二人はすぐに困窮した。

何処かで気づけた筈の事に気づけなかったのは、友人が上手だったのか、バルサンが間抜けだったのか。

困窮した彼は、コラリーを娼館に売った。

そこでも何があったのか、内情までは分からない。

愛するバルサンの為に泣く泣くコラリーが身を挺したのか、バルサンの嘘に騙されたのか。

コラリーの実家にも公爵家の手は回っていた。

公爵家と侯爵家の密約が交わされたと同時に、コラリーの手助けをすると弟の出世に響くと暗に脅したのだろう。

子爵家の次期当主である弟の為にも、コラリーを見捨てざるを得なかったのだ。

子爵夫妻もまた搾取していた長女と次女から見放されて困窮していたので、そもそも三女のコラリーに支援する金も無かっただろう。

助けを求めたコラリーは彼らに冷たくあしらわれ、馬鹿にしていた姉達に今更連絡しようとしてもその連絡先さえ知らなかったのである。


コラリーは美しかったし、元貴族令嬢という出自を売りにして、ある程度は人気が出たらしい。

だが、多くの客を相手にしたせいで、どこからか貰った病気で1年も経たずに亡くなった。

バルサンは、友人に騙されたのか奴隷として売られてしまったのだと報告書にはある。

他国へ連れて行かれてしまったので、そこで足跡は途絶えた。


もしも、堅実に暮らした二人が三年後の約束の日に現れたなら、弟と婚約を結び直した事を伝えて、二人の婚姻を認めてあげると言いたかった。

侯爵家を継がせて、愛人を許すなどとは約束していない。

そのまま平民として暮らしてくれ、とつきつけるつもりだったのに。

伝える事すら出来ないまま。


たった一言で、彼は自分の人生を終わらせたのだ。

アドリアーヌが態々手を下す必要もなく、ただ助けなかっただけで自ら破滅していった。

今となってはあの時の選択は正しかったのだと、アドリアーヌは今日も穏やかに微笑む。

仏語にバルサンて名前が合ったから……名前を呼んではいけないあの御方を退治するのに使うアレしか思い浮かばないですね。

もっとねっとり平民生活を書いてみたりするのも楽しそうですが、これ以上連載増やせないのと、書くなら色々調べないとなので、さらっとになりました。

バレンタインのチョコレート情報助かります。ありがとうございます。これでひよこの命が助かりました。

この時期はパケ買いもしちゃいますよねー!分かる分かる分かり過ぎます。おすすめされたメリーチョコレート覗いたら買っちゃいましたよね。ひよこはにょろにょろが大好きなのでポチ。ふわふわの熊のポーチも可愛くてポチりました。2号は猫好きというか、猫至上主義なので猫ポーチを上げようと思います。

久しぶりに見たけど、ムーミンママって裸エプロンですよね(すき)

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― 新着の感想 ―
卒業までに切れ。って言われたら、 卒業までは、いいんだ! って思っちゃうなぁ。
弟と結婚ですかー。兄の浮気も見逃して=公爵令嬢を馬鹿にしていた侯爵夫妻はお咎めなしどころか元のまま援助も貰えて万々歳?
2025/01/26 08:55 退会済み
管理
>「面目も無い。必ずアドリアーヌ嬢を優先し、火遊び程度の女とは卒業までに切れるようにと厳命していたのですが」 こいつら自分の立場分かってねえ^^;
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