伝書鳩
キュッ――。
「よし行けッ!ジェームズ!」
吾輩は鳩である。名前はまだ……。
名前はジェームズ。
主につけてもらった、自慢の名前だ。
今日も朝日が眩しく輝く。
まるで吾輩の心を映しているかのようだ。
脚元の筒がギラギラしているだろう?
この中には、想いの詰まった文が入っている。
これがまた、大層熱い想いなのだ。
感覚の鈍い吾輩の脚が、焦れったくなるほどにな。
バサリバサリ――。
うむ、あの家だ。
主が慕う令嬢の屋敷だ。
主の家から、おおよそ三時間。
わざわざ文にせず、会いに行けばいいものを。
主は、よっぽど照れ屋らしい。
だからこうして、吾輩が届けるのだが。
おお、いたいた。
今日も美しい。
窓辺にもたれ掛かり、吾輩を待つあの女性。
毎度必ず、手ずからとうもろこしを分けてくれる、麗しの君。
ガラッ――。
ガラス窓が開け放たれ、吾輩は窓のふちに舞い降りた。
うむ、完璧な着地である。
きっと彼女も感動しているだろう。
ほら、やはりな。
彼女の細い指が、優しく背を撫でているではないか。
キュキュッ――。
銀の筒から文を取り出し、綺麗に伸ばすと、熱心に読み始めた。
一文字一文字。
主が丹精込めて書き記した文章を、心に刻むように読み込む。
文を読む彼女の横顔は、儚げであった。
返事を書く彼女の表情は、切なく愛おしい。
キュッ――。
「またお願いね。ジェームズ」
吾輩は、柔らかな手にくちばしを突っ込み、とうもろこしをついばんだ。
そして、主へと文を届けるため、羽ばたく。
バサリバサリ――。
おっと、これはいけない。曇ってきた。
まるで吾輩の心を映しているかのようだ。
行きはあれほど体が軽かったのに、帰りはこんなにもどんよりしてしまうのか。
うーむ、恋というものは厄介だ。
主も大変であろうな。
「お帰りジェームズ。明日も頼むよ」
明日、か。
そうだな。
明日も文を届けよう。
吾輩の想いと共に。
「残念ヒロインとギルドシェア爆上げ旅〜スキル【コールセンター】では知識無双もできません〜」
ファンタジーギャグコメディです!
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