第2話
あなたは素晴らしい
僕らがこの村に来た頃目に付いた看板。ひまわりの花言葉みたいなものだろうか?僕には少し違和感があった。僕はこの村で会うひとたちに所謂自己肯定感の高さを感じた気がしていて、幼いわが子をここで育てたいと考えた。妻を説得して移住した。それから15回目のひまわりの季節。
みっちり植えられたひまわりは若い頃毎日日の出からお日様を追いかけて東から西へその首をまわして夜の間にまた東を向いて朝日を眺める準備をする。そうして育つと東を向いたまま、上向きだったその大きな頭を項垂れるみたいになって枯れて行く。枯れたら刈られ、翌年また種を蒔かれる。規則正しく並べられ、一斉に。それらを見に来て都合良いアングルでフレームに収める観光客。盆休みの間滞在人口はいつもの倍になる。ひまわりはもう俯いてるのに。作られた花、作られた人、作られた村。作られた世間。
あなたは素晴らしい
僕は無茶をして家族をここに居られなくした。けれどもここで育った、過ごした事実は彼らに残っている。昨年から一人眺めるひまわり畑。枯れてしまえばまるで死者の行列。僕はまともに見る事が出来ない。
あなたは素晴らしい
少なくとも僕よりは。そんなつもりじゃなかったけど、僕は誰より下になってそれを真実としてみんなに差し出す事が出来た。賑わいから逃れて、いや、その輪に入れず遠くから眺めて。
きみに会いたくて無茶してしまいそうな気持ちを諌めて眠る。目覚めた深夜0時、星が落ちて来そうな空。きみからの短い返信を見るためにかけた老眼鏡越しにまた見上げると、それはぼんやり滲んでいた。