第1話
予報通りに雲が多い空。夏の雲は重たい。そのくせその水気は落ちて来ないで地べたに張り付いた僕らにじめじめと不快な熱を与える。カンカン照りよりはマシ、焼かれるみたいな暑さは無い。それでも暑い。日中に仮眠すると汗だくになってしまう。短パン一丁、じっとり汗をかいて目覚めた。時間は16時。僕は山へ出向き友人の商売の為に苔を集める。この天気、時間、山は暗くて涼しい。夏休みの街の子らの矯声にむせ返る道の駅周辺とは違ってしんとして沢の音、僕が踏みしめた枯れ葉の音だけ聴こえる。今日は虫たちも静かだ。葉は冬に枯れるものと思っていた。けれども草刈りあと、強い陽射しに当たる場所は茶色く枯れている。それでも春や秋にはまた青々と新しい芽を出して、鬱陶しい雨に伸びて刈られる。繰り返し。苔も日向のは干からびている。沢沿いでいくらか集めて車に戻った。車に集まる虻も落ち着き赤蜻蛉が浮かんでる。釣り堀、信号、馬に跨る女の子。それについて歩くその家族。戻らなきゃならない。友人の店は道の駅の隣にある。ちょうど温水プールに隣り合っていて、子どもたちの騒ぐ声が聴こえる。友人は不在、店の裏で採って来た苔を並べる。その向こうには川が流れていて、川向うにある合宿所から子どもらが歩いて橋を渡り、目の前の道を歩いて居る。甲高い矯声がひっきりなしにあがる。川遊びをしているようだ。この周辺にはひまわりがたくさん植えられている。少し前から咲いてるから、盆休みの間持つのだろうか?昨年もそんな心配をした。そうしてみんなが夏を楽しむその頃、僕は車をぶつけられ、スズメバチに刺された。規則正しく植えられた数百本のひまわりが、こっちを向いて咲いている。川遊びする子どもたちの方からはただ、緑色。僕を見ないで、あっちを向いてやってくれ。それでも彼らは頑なにおんなじ方を向いている。友人の店を後にして住処である小屋へ戻る。ひまわり畑の後ろ側の畔に刈られ忘れたホタルブクロの花が一輪だけ、可憐に淋しげにこっちを見ていた。