1話
僕の名前は十木野 カイ。今は母親と二人暮らしだ。父は物心着く前に離婚したらしい。生活は苦しいが、周りの人間には恵まれていると思う。無造作に伸びた黒い髪と隈の多い目は、この僕のチャームポイントと言えるだろう。言えるのか?
外はもう暗い。僕は暗い夜道の中、チャリンコを転がし始めた。
「お腹すいたな〜」
人生唯一の楽しみとも言える、メシがもうすぐだ。今日のご飯は何かな。期待を胸に、立ち漕ぎをする。
綺麗な星が空に舞う。草の匂いが脳に染み、虫も歌うご機嫌な帰り道。
刹那―路地裏から聞こえる、女の悲鳴
思わず急ブレーキをかける。
心臓の鼓動が早くなるのを全身で感じる。
呼吸が浅くなり、精神が研ぎ澄まされる。
そして、夕方の猟奇殺人事件の話が脳裏に浮かぶ。逃げなきゃと思うが、好奇心が言うことを聞かない。正しい判断じゃないかもしれないが、一体どんなやつが犯人なのか顔を知りたい。
非日常に魅了され、考える暇もなく、体は動き出していた。
電柱の隙間から悲鳴の聞こえた路地裏をこっそり覗き込む。しかし、そこには誰もいない。
感じるのは、背後に立つ人の気配だけ。
心臓の鼓動がうるさい、全身に血管が張り巡らされる感覚がする。
あぁ頭が白くなる何も考えられない。
首筋に灼熱が走る。何が起きたのかわかったのは地面に伏してからだった。血がどくどくと溢れる。どうやら首を抉られたみたいだ。
意識が遠のく―――――――
???「ちっ、遅かったか」「おい大丈夫か!!」
???「もう手遅れだ、店長に連絡を」
???「まて、こいつは!?」
派手な格好の2人組を最後に見て、僕の意識は完全に消失した。