プロローグ 片田舎の異変
ー君は無限に時間があったらどうするー
中学の時の担任の言葉がふとよぎる。
きっと僕なら、働かずにぐーたら過ごして悠久の時に甘えるだろうな。
高校三年生。まさに人生の節目である。
働くもよし、進学もよし、なんでもござれの進化元だ。
なぜ人は生き急ぐのだ。もっとゆっくりしようよ。働きたくないが金は欲しい。人は矛盾を抱えて生きていくんだなぁ。
「...お....おき....おきろ!!」
まだ重い瞼をこすりながら、身体を起こす。
春の暖かさに誘われて、どうやら眠っていたらしい。緩やかな春。もう一睡しよう。
「おいっ!トキノッ!」
半開きの目で声の主を捉える。
こいつの名前は千葉敦。保育園の頃から高校3年まで、ずっと一緒だった所謂幼なじみだ。オレンジの髪がトレードマークの憎めないやつ。
今日も今日とて元気で羨ましいやつだ。
「トキノ、もう放課後だぞ。」
放課後か。そんなに寝てたのか僕は。
「すまん。寝てた。―でなんの話だっけ。」
「むっ、まいいだろう。とにかく帰るぞ。」
少し不服そうな敦と下駄箱へ向かう。
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学校を出て、チャリンコを転がし並走する。
雑談混じりの下校。この光景もあと1年で終わりか。やはり就職は悪、はっきりわかる。
「しっかし最近物騒だよな」
「確か、猟奇殺人事件だっけか。しかも、死体は見るも無惨な肉片になって見つかるとか。まだ犯人捕まってないのか。」
巷で噂の猟奇殺人事件。ここ、アシタバ市でおきている。死体はミンチ肉のような状態で見つかり、被害者の身元特定が難しいらしい。
「うぅ〜怖。こんな片田舎で物騒なことも起こるもんだ。」
「トキノ、お前も夜道には気をつけろよ」
まるで脅し文句のようなセリフで僕に注意を促す。しかし、表情は真面目そのもの。本気で心配してくれているのだろう。
「あいあい、わかった。シンパイアリガトー。」
「まったく。こっちは心配してんのに。」
「じゃあ、僕はこれからバイトだから」
「おう、また明日な」
心配性な敦に別れを告げ、スーパーのバイトに向かう。
流れるお客さんを捌いて、接客から棚だしまで器用にこなしていく。フッ、労働など慣れれば余裕だぜ。
「だは〜ん。疲れたぁん。」
「トキノ君、お疲れ様。今日は上がっていいよ」
「はい、お疲れ様でした!!」
疲れた体に鞭を打ち、体を動かす。
田舎は街頭が少ないから暗くなるのが早い。
壁にかかった時計を見る
「今は、21時か」
急いで帰らなければ、母さんが心配するだろう。